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サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 移行国家のエネルギー・ガバナンスの課題と展望― エネルギー安全保障、エネルギー貧困と環境安全保障から見た持続的発展モデルの模索 ─

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2015年度

移行国家のエネルギー・ガバナンスの課題と展望
― エネルギー安全保障、エネルギー貧困と環境安全保障から見た持続的発展モデルの模索 ─

慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
稲垣 文昭

本研究は「エネルギー安全保障」、「エネルギー貧困」、「環境安全保障」の三つの視点から旧共産圏移行国家のエネルギーを巡る現状や展望、さらには国際社会による支援のあり方について考察 し、旧共産主義体制からの移行国のエネルギー・ガバナンスのあり方を探ることを目的としている。

以上の目的を踏まえて、本研究では中央アジアおよびポーランドのエネルギー安全保障政策を対象として、各国家・地域の専門家からなる共同研究を行い、石油・天然ガスの純輸入国がその安定的確保(エネルギー安全保障)の観点、そして石油価格高騰に伴う国民への安定的かつ安価なエネルギー供給(エネルギー貧困)の観点、さらには旧共産主義時代からの産業構造を背景として石炭利用を検討せざるを得ないことを明らかにした(2015年度は「第9回国際中欧・東欧研究協議会世界大会(ICCEES IX)」にてパネル “The Nexus of Environmental and Energy Security in Former Communist States”やパネル “Energy or Environment? the Dilemma in Post-Communist Countries for Sustainable Development”における各メンバーの報告)。

さらには、当該地域において最も影響力をもつロシアのエネルギー政策についても主要な考察対象とするとともに、メンバーによる現地調査などを踏まえ、2016年6月には「(一社)北東アジアエネルギー安全保障ネットワーク(CESNA)」と共同で研究会を開催し、旧ソ連圏において、中央集権制に基づくエネルギー再分配を代替するエネルギー・ガバナンスが構築されなかったことがエネルギーの供給を不安定化させている一因と結論づけた。その上で、エネルギー貧困と環境問題を踏まえた形でかつて一体的なエネルギー分配が行われていた旧ソ連圏・共産圏における地域レベルでのエネルギー再分配メカニズムの具体的なあり方と実現のための障害などが今後の考察すべき研究課題として残された。

なお、各メンバーの成果については個別に出版済みであるが(例えば、稲垣文昭「移行期にある中央アジアのエネルギー安全保障」金沢工業大学国際学研究所編『安全保障と国際関係』内外出版、2016年、pp.123-144)、全体の研究成果については2017年以降に編纂し出版する計画である。

2016年9月


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