成果報告
2015年度
19-20世紀、欧米における日本学の形成
- 学習院大学国際研究教育機構 准教授
- 伊藤 真実子
【研究の目的】
本研究グループの研究目的は、ヨーロッパ、とりわけイギリス、ドイツにおける日本学の形成とその変容に関する調査、考察である。日本アジア協会は、1872(明治5)年に横浜在住の外国人により日本研究を目的として設立された団体で、現在も存在する。会員には、H・パークス、A・サトウなど明治以降現在に至るまで歴代の日本研究者が名を連ね、イギリス人を中心とした日本に滞在する外国人の交流の場であった。会員が本国に帰国した後は、本国の日本/アジア担当として外交官、学者、貿易商などとして活躍し、政府のアジア政策/対策の一翼を担う者もいたが、アジア、とりわけ日本を専門とする者が限られていたため、一人で様々な役割を担う場合も多かった。また、情報交換のために会員の交流も続き、彼らの活動および交流がこの時代のヨーロッパにおける日本学を形成した。そこで、本研究グループはヨーロッパにおける日本学の形成と変容の調査・考察のため、同盟国から敵国へなったイギリスと、模範国から敵国へ、さらに同盟国へとなったドイツに特に着目し、両者の比較研究を行なう。そのために、イギリス人の会員を多く有した日本アジア協会と、ドイツ東洋文化協会を主な研究対象とし、その活動や会員について調査、考察をおこなう。
【研究の進捗状況】
本研究グループは、「欧米における日本」というテーマで、2012年1月に「見せるアジア、見られるアジアー近代国家と博覧会・博物館」を学習院大学で開催し、その成果として『世界の蒐集―アジアをめぐる博物館・博覧会・海外旅行』(山川出版社、2014年)として刊行した経験を持つ。この共同研究の中で生まれた課題が、欧米の日本研究者と日本学の設立過程の調査、研究という本研究である。
本年度は、研究基盤情報を確立すべく、日本アジア協会、ドイツ東洋文化協会について、創設から1945年の期間を対象に、紀要に掲載された論文の題名、執筆者、例会での報告題名と報告者、会の会長など主要メンバーの経歴などの一覧をデータベース化した。さらに、そのデータベースを利用して、日本アジア協会、ドイツ東洋文化協会のメンバーが本国に帰国した後の活動内容、経歴についての情報の収集とデータ化を進めた。とりわけ、本国に帰国後の、本国の植民地政策、東アジア/対日政策への関与と、交流関係の調査を進めた。欧米の植民地政策の一翼として、知(文化)と権力、イデオロギーの結びつきは指摘されているが、本研究では、研究者たちの背景、活動内容、相関関係などのの詳細がわかる研究情報基盤形成を目指しており、その成果であるデータベースについては、Webでの公開を目指している。
また、研究会での個別報告では、日本アジア協会、ドイツ東洋文化協会のほか、フランスにおける日本研究の歴史や、北京東京協会についての調査、報告を行った。そのほか、個々のメンバーによる個別研究をすすめており、その成果は、2017年の国際学会での報告を行う予定である。
2016年8月