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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2015年度

世界文学全集の比較対照研究および各国における世界文学概念の発達

東京大学教養学部 専任講師
秋草 俊一郎

本助成をうけて、研究会を開催した結果、以下のことが明らかになった。

「世界文学」という言葉がゲーテの提唱よるものだということはよく知られている。この言葉は一九世紀後半から二〇世紀前半にかけて様々な形で各地に普及した。

日本において、笹沼俊暁の先行研究も示しているように、明治末から大正期にかけて、「世界文学」概念は国文学の揺籃として必要とされた。内村鑑三の「何故に大文学は出ざる乎」などの文章も示しているように、それは国内の近代化・脱亜入欧の動きと呼応していた。そのため、「世界文学=西洋文学」の暗黙の等式が成立することになった。

アメリカのシカゴ大学で教鞭をとっていたリチャード・モウルトンの世界文学論は、大正教養主義を背景にして土居光知や垣内松三によって受容され、論壇や教育に影響を与え、間接的に新潮社の円本版『世界文学全集』を準備したと思われる。

終戦後、世界文学は左翼的なイデオロギーや戦後民主主義と結びつく形で受容された。大正教養主義がリヴァイヴァルされたのである。その中で『世界文学全集』も全集ブームニのるかたちで一般家庭に普及した。反面、世界文学の大衆化は、大文学、すなわち理想的な近代国民文学としての世界文学像の凋落をまねいた。並行して、文壇にも全集によって「世界文学」的な教養をたくわえた作家が生みだされるようになった。

もちろん、このような「世界文学」概念が流通したのは日本だけではなかった。ドイツで生まれた「世界文学」概念は、英仏のような文化的先進国よりも、さらに周辺的な国家でこそ必要とされ、さらに周辺的な国家へと受け渡されていったと推測される。アメリカでは、ギリシア・ローマの古典から自国の文学までの「世界文学」購読が、大学教育において実施されたり、ソ連ではゴーリキーの主導のもと、労働者にすぐれた文芸作品を提供することを目的とした出版社「世界文学」が設立されたりした。研究会では、メンバーがフランス、ユーゴスラビア、スウェーデンなどの「世界文学」概念の形成や、叢書の刊行について報告をおこなった。

なお、これまでの研究会の成果を岩波書店刊『文学』9・10月号、特集「世界文学の語り方」としてまとめ、刊行予定である。

今後の方針としては、フランコ・モレッティの挑発的文学論「世界文学への試論」、以降主に欧米で議論されてきた世界文学研究の日本への適用について、メンバーで討議をおこない、より脱西欧中心主義的な「世界文学」理論の形成について検討する。さらに、海外からのゲストスピーカーを招いた国際シンポジウムの開催について協議中である。また、上記のような研究の成果を踏まえ、実際に高校や大学教育で使用に耐える「世界文学アンソロジー」の編纂をおこなう予定である。

2016年8月


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