成果報告
2014年度
プロダクトデザイナーの「デザイン態度」の探索と国際比較
― 日本のデザイン・アイデンティティの形成に向けて ─
- 立命館大学大学院経営学研究科博士後期課程
- 安藤 拓生
1.研究の動機・意義・目的
本研究の目的は、日本のデザイナーの持つデザイン態度(DesignAttitude)を国際比較研究から明らかにすることである。近年、不確実な環境下で企業が継続して利益を上げていくための新たな競争力の源泉として、「デザイン」に注目が集まっている。プロダクトデザインの領域では、アップルやサムスン、ダイソンといった国際企業がデザインの力を用いて成功を収め、経営コンサルティングの領域においても、デザイナーに特徴的な問題解決の思考を方法論・手法化したデザイン・シンキングを用いてコンサルティングを行うIDEO社を筆頭に、多くのコンサルティング会社がデザイン会社を買収しその知を活用し始めている。このように、デザインは製品の外観としてだけでなく、その方法論やプロセスにも注目が集まっており、企業ではこのようなデザインの価値を生み出すプロセスをよくマネジメントすること(デザインマネジメント)が必要となる。現在のグローバル市場では、企業で創出されたデザインを経営資源として捉え、企業のデザインマインドの形成を通して組織に位置付けていくことは、競争優位を生むひとつの方向性として示されつつある。このような背景から、国内企業においてもデザインマネジメントやデザイン・シンキングの手法を活用する取り組みが始められているが、効果的な導入が進んでいるとは言いがたい現状にある。この問題の背景には、これまでデザインとマネジメントの志向の違いに焦点を当てた理解が十分に促進されてこなかったことがある。実際に欧米の研究においては、デザインの持つ志向とマネジメントの持つ志向の乖離はこれまで度々指摘されてきた。日本企業が今後デザインマネジメントを実践していくためには、経営層がデザイナーやデザイン専門家集団が持つ文化であるデザイン態度をよく受け入れ理解し、マネジメントすることが重要であるとされるが、そのようなデザイナーのプロフェッショナリズムがどのようなものであり、どのように形成されるのかはこれまで十分に検討が行われてこなかった。このような問題意識のもと、本研究では国内外で活躍するデザイナーへのインタビュー調査を通して、デザイナーの持つデザイン態度の要素とその形成要因の探索を行った。
2.研究成果・研究で得られた知見
本研究では、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Glaser&Strauss1967)の研究方法を用いた。これは、比較法・帰納法を用いて、領域密着型理論(特定領域に密着する形で展開される理論)を産出し、フォーマル理論(他の領域にも応用可能な一般性を持った理論)に漸進的に発展させることを目的とするボトムアップ型の研究スタイルである。研究成果として、いくつかの日本のデザイナーの持つデザイン態度が明らかになった。日本のデザイナーの持つデザイン態度には、問題解決を目的とした志向と、課題発見を目的とした志向の2つの志向があり、それぞれ「論理性を重視する(logicality)」
「深い洞察に従事する(Engagedeepinsight)」、「新しい価値の探索(Createnewvalue)」「喜びを与える(Bringajoy)」の4つのカテゴリーが生成された。加えて、「社会性を意識する(Contributetosociety)」、「美しさを探求する(Engageaesthetics)」といったプロフェッショナリズムが明らかになった。これらのデザイン態度は、所属組織に共有される文化や実務の中での経験といった、主に組織での活動を通じてデザイナー個人の中に形成される。
加えて、イタリアで活動を行うデザイナーを対象に行ったデザイン態度の探索から、いくつかの要素に違いが見られ、国際的な違いが存在する可能性が示唆された。
3.今後の課題・見通し
本研究はデザインとマネジメントの関係に焦点を当てた基礎研究に位置付けられる。本研究を通して日本のデザイナーのデザイン態度を明らかにすることは、経営実務のデザインの理解の促進と効果的なデザインマネジメントの理論的・方法論的な視座を構築することにつながると考えている。
これまでの研究を通していくつかの日本のデザイナーの持つデザイン態度が明らかになったが、デザイン態度の国際的な違いについての詳細については未だ探索中である。加えて、これまでの研究では、これらのデザイン態度が、デザイナーに特有なものであるのかについては明らかになってない。今後は、国際的な違いに加えて職種による違いの観点からも継続的な比較分析を行い、デザイン態度の詳細な検討を行っていく。
Glaser, B. G. & A.L. Strauss, “The Discovery of Grounded Theory: Strategies for Qualitative Research”, Aldine Publishing Company,1967. /後藤隆ほか訳『データ対話型理論の発見』, 新曜社 , 東京 , 1996 年
2016年5月