成果報告
2014年度
静岡の茶業と茶文化の共同研究と発信による地域振興
- 静岡大学人文社会科学部 教授
- 小二田 誠二
静岡は、歴史的にも、現代でも、茶の生産から流通に至るまで、多くの関連産業を含め、日本における茶産業の中心であり、茶とともに発展してきた。一方、実際に茶業に従事する人たちは、外国を含む他産地との競争、消費の低迷等への対応に専心しており、こうした歴史・文化研究の成果に触れる余裕はない。
この研究では、茶の専門家だけでなく、歴史学・民俗学・文学・美術など、茶業と直接関わらない専門の研究者と茶業関係者とがお互いの知識や情報を共有し、江戸時代以前から近代に至る茶に関わる文献を読み解き、或いは古老からお話を伺うことで、日本茶の拠点としての静岡を学び、発信することを特徴としている。
今回の研究では、これまでの研究の反省を踏まえ、そこで築かれた茶業・茶文化に関わる人々、研究者のネットワークを活用、地の利を活かし、文献研究と実際の聞き取りや実地調査などを通して、交流しながら学びあう場を作って活動している。
今年度の具体的な活動は、以下のように3分類出来るのでそれに従って概要を説明する。
1 深蒸し茶に関する聞き取り調査
昨年度報告書『深蒸し茶のルーツ』刊行以降も様々な情報が寄せられているため、継続的に聞き取り調査を行っている。
証言のほか、歴史的な製茶機械や建造物、資料の発見も相次いでおり、今後も調査、整理が必要である。
2 不定期の公開勉強会及び展示・講演等
メンバー及び専門家をお招きして、お話を伺い、意見交換する会を不定期で、基本的に公開で行っているほか、これまでに得られた知見をより多くの人に知って頂くため、様々な機会を捉えて外部の講演や展示にも協力している。
具体的には
お茶の郷博物館企画展「海外に渡った日本茶」展示協力
公益財団法人世界緑茶協会共催公開講座
「茶、生糸、そして陶磁器-明治の日本を支えた貿易商たちの足跡」 講師 井谷善惠氏
「蘭字について〜新しい資料から〜」 井手暢子氏
茶学術研究会総会特別講演
「近代日本茶の海外向け広告〜効能に注目して〜」 (吉野・小二田) 等
今後も、
フェルケール博物館企画展「蘭字と印刷」資料収集・展示・講演・図録作成等
ALLABOUT TEA全冊電子化公開
茶町のCG再現映像公開
全国お茶まつり静岡大会で講演
等を予定している。
3 近代茶貿易の広告に関する研究
現在の問題ともリンクする広告に関して、小冊子やALL ABOUT TEA掲載分については一応まとめて報告書を作成した。
『海を渡った日本茶の広告 小冊子編』刊行
『海を渡った日本茶の広告 ALLABOUT TEA編』刊行
この過程で新たに発見された資料によって、静岡において特徴的な、茶箱ラベルから缶詰ラベルに至る歴史も含めつつ、寄り拾い資料収集を行っており、その成果は、9月にフェルケール博物館で公開予定である。
広告に関する研究は、本格化したばかりで、新出資料も多く、美術研究者、博物館とも協力しつつ、今後も積極的に行っていく。
今後も、これまでの調査で所在が明らかになった近代産業遺産としての生産機械類の調査、静岡市及び藤枝市の茶町の町並み再現を伴う観光資源化、蘭字(欧文茶箱ラベル)及び、それ以降の茶流通に関わる商標や広告の歴史の整理、研究、展示等を継続して行う事を予定している。
2015年8月