成果報告
2014年度
マイクロ・ライブラリーによるコミュニティ創造と地域振興
- 一般社団法人まちライブラリー 理事長
- 礒井 純充
(1)研究概要
本研究は、個人または小規模なグループが、規制や制度に縛られない独自の図書館活動を通してコミュニティを作り、人的交流と地域の活性化に取り組む「マイクロ・ライブラリー」がテーマである。当活動は、地域に眠っている資源を活用しようという個人の意志やアイデアの発露によって生み出されたものが多く、公共性や社会的意義の高いものが散見される一方で、金銭面の負担軽減、意欲の持続といった個人的活動を支える仕組みが課題といえる。そこで、本研究では、全国500以上に及ぶマイクロ・ライブラリーの実態調査とリスト化、ライブラリー主宰者らへのヒアリング、主宰者らが互いに将来像や課題を討議する場を設けるなどし、マイクロ・ライブラリーによるコミュニティ創造と地域振興の現状と課題を明らかにし、当活動の促進に役立てることを目的とした。
(2)研究の成果
①マイクロ・ライブラリー サミットの開催
研究期間中、約30館ほどのマイクロ・ライブラリーに現地調査と主催者へのインタビューを行った。本調査を通して地域社会に根ざしたライブラリーが多数発生していることから、その代表らを大阪に招聘し、本がつなぐコミュニティをテーマに「マイクロ・ライブラリーサミット(2014年8月29日、30日の二日間)」を開催した。これらの成果は、『マイクロ・ライブラリー 人とまちをつなぐ小さな図書館』として出版した。A〜Bはこれら活動で得られた主な成果である。
A:世界的規模で展開する巣箱型図書館「リトル・フリー・ライブラリー」との出会い
調査の過程で世界的規模の小さな巣箱型図書館「リトル・フリー・ライブラリー(LFL)」の存在を知り、アメリカウィスコンシン州に創始者であるトッド・ボル氏を訪ね、また、彼をサミットに招聘し詳しく話を聞く機会を得た。LFLは、全世界75カ国、2万カ所にあり、毎月千個のペースで増えている。トッド氏より「オーナーの一人が、この巣箱を作って一週間に出会った人は、この地に住んで10年間で出会った人よりも多いと言っていた。」と聞き、LFLが子供や高齢者の見守りやケア活動にも発展し、コミュニティ再生のきっかけとなっている事例を多数得ることができた。
B:まちの中に溶け込むマイクロ・ライブラリーの出現
日本国内においても商業施設や商店街、医療、宗教団体、公共図書館、子供向け施設などまちの施設においてライブラリー活動が活発に行われており、各地の現状を視察するとともに、サミットに11館のオーナーや関係者を招聘し詳しく話を聞いた。そこには、施設のサービスを目的に集まる利用者の人溜りがあり、そうしたコミュニティの中に共通の趣味や興味などを持った人々の小さなつながり「ソサエティ」がいくつも生まれていた。地域社会の中に、互いに生活を支えあう共同体が存在しない今日、地域コミュニティは、小さな無数のソサエティによって支えられ、また、ソサエティが地域への貢献や社会的活動への参画の鍵となると考える。
C:全国815のマイクロ・ライブラリーのリストの作成
日本全国のマイクロ・ライブラリーは815(2015年3月末現在)であり、ライブラリーの特徴、住所、連絡先、開館日・時間などをまとめた一覧を作成した。
②大阪ブックフェスタの実施
「大阪ブックフェスタ+2015(2015年4月18日から5月17日まで)」は、本研究申請時には予定していなかったが、①の活動を通してアイデアが生まれた。大阪周辺を舞台にした、本による文化発信イベントであり、・マイクロ・ライブラリー、公共図書館、書店といった組織の垣根を超えた活動への挑戦・広域なエリアでの本を介した人との出会いの創出・地域の活動の顕在化、社会活動への参加促進を試みた。126団体が参加し、139箇所のブックスポットで260以上のイベントを実施、参加者は5000名に上った。運営は、団体やブックスポットに生まれた数々のソサエティによるボランティで賄われた。なお、本活動の記録は報告書として取りまとめた。
(3)課題と展望
地域コミュニティは、そこに住まう人たちが共同して生活環境を作り上げる中で生まれる。さらに、多様な価値観や視点の異なる人々を受け入れるものでなければならない。本研究を通して、地域コミュニティの活性化、再生においては、コミュニティの中に小さな「ソサエティ」を作ることが有用と考える。ソサエティとは、趣味や興味が共有できる「仲間」である。マイクロ・ライブラリーは、本を用いることで簡単に関心事を表現ができ、また、共感を表明することも容易く、コミュニケーションにおいてもフラットな関係を築くことができる活動であり、生活者によって地域コミュニティの要となるソサエティを無数に創出することができる機能と考える。ソサエティならびにコミュニティの継続が鍵であり、いかに個人的活動を支援するかを課題に、今後もさらにマイクロ・ライブラリーを通して地域再生、振興に寄与したい。
2015年8月