成果報告
2014年度
東アジアの環境史的課題共有をめざす研究ネットワークの構築
- 香川大学教育学部 教授
- 村山 聡
1. 研究目的、これまでに得られた知見
本研究プロジェクトの目的は、東アジアならびに東アジアを越えた環境史的課題の共有に基づく、新たな研究ネットワークを構築することにある。
グローバルヒストリーを除き、歴史研究の多くは現在でも国家の枠組みの中で議論されている。そのため、依然として、東アジア地域における歴史の双方向理解において、政治的国民国家的に多くの困難を抱えざるをえないのではと考える。この現状を打開するため、共通かつ普遍的な視野と国家や地域を越えた共通の課題を多次元で共有する環境史研究に基づき、新たな対話の可能性を推進し、東アジアとその周辺地域ならびに欧米等の研究者等との超域的ネットワークの構築を目指している。
Table: Network Keyword
1) Animals
i) aquatic animals
ii) wildlife
iii) domestication
iv) zoo and aquarium
v) species preservation & extinction
2) Plants
i) greening
ii) forestry (afforestation, deforestation)
iii) wild plants (edible, medicinal, spiritual)
iv) crops (agroforestry, agriculture)
v) invasive species
vi) species preservation & extinction
3) Microorganisms
i) biosphere
ii) atmosphere
iii) microbes
iv) infectious diseases & vectors
v) pandemic/endemic
vi) zoonosis
4) Water
i) urban water
ii) lakes and river water
iii) ground water
iv) wetlands
v) seas and oceans
vi) irrigation
5) Air
i) atmosphere
ii) clean air
iii) air/space pollution
iv) weather
v) climate change (anthropogenic and natural)
6) Land
i) lithosphere/cryosphere
ii) soils
iii) earth movers
iv) cultural/ecological landscapes
v) continents and islands
7) Disasters
i) natural events
ii) extreme weather events
iii) anthropogenic environmental disasters
iv) historical records
v) mitigation
vi) resilience and recovery
8) Foods
i) food security
ii) food and technology
iii) animal husbandry/pastoralism
iv) land and sea nomadism
v) material circulation (land and sea links)
9) Waste
i) biological waste
ii) chemical and hazardous wastes
iii) waste management
iv) material circulation
v) consumption behavior
10) Humans
i) gender/sexuality
ii) population
iii) ethnicity
iv) nature views/religion/ethics
v) ecological footprint
これまでの地球環境の超長期的な歴史や文明論とは異なり、動物、植物、微生物、水、空気、災害、食、廃棄物、人類など(本プロジェクトで構築した領域/ネットワーク・キーワード)を対象とする新たな環境史研究は、複数の時空間の相互関係を対象に、歴史学がこれまで取り扱ってきた世界を大きく変える可能性がある。
地球そのものの将来を人類が決めかねない今日、この新たな環境史研究は文系・理系の枠を超え、人類と自然との関係性の宝庫である過去の「実験場」を知り、現在と将来に役立てることのできる挑戦となる。
2. 進捗状況、今後の予定
国内29名で運営しているネットワーク委員会(右記の表)では、10領域を定め、キーワードを新たに設定し、それに基づきネットワーク構築を進めた。第3回東アジア環境史学会(本年10月高松で開催)が今回の研究プロジェクトの一つの実施現場であり、全世界で20数カ国以上、200名以上の報告者の応募を得た。2011年以降、過去2回の学会参加者数の実績の倍を越える。これが第一の成果である。
また第二に、東アジアの環境史研究においては、これまで十分なネットワーク構築ができていなかった国際研究の分野、たとえば、国立公園の比較史研究、気象史研究、食の歴史研究などにおいて飛躍的なネットワーク構築を進めることもできた。
今後、日本の環境史的課題に焦点をあてつつ、エネルギー問題・気候変動など、自然科学系分野との協働がより期待される新たな領域ネットワークの構築を進める。そのため、NaMACサイクルという4次元アプローチを開発し、東アジアの過去・現在・未来の特性を明らかにする ”Living Spaces”の解明に向け、共同研究を進めている。
2015年8月