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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2014年度

家族主義的福祉国家における介護ミックスの発展とその要因:南欧と東アジアの比較

シラキュース大学マックスウェル・スクール 准教授
マルガリータ・エステベス・安部

 2013年度は、東アジアと南欧の家族主義諸国における保育や介護政策の状況を比較するためのワークショップを開催した。民間サービスや公的サービスを拡大しようとする国々と、各家庭が移民労働者を安く雇い、家族代わりに保育や介護をして貰えるように移民政策で対応する国々に大別されるが、(1)東アジアと南欧での移民労働者への対応の違い、(2)東アジアで介護労働者が婚姻によって入る経路があること、(3)日本は保育政策では遅れているが、介護は市場化によってサービス供給を急拡大させたモデルとして興味深いこと、などが明らかになった。
 2014年度は、2013年の研究会での議論の成果を踏まえ、日韓イタリアとスペインの4カ国に焦点をあて、移民労働・国際結婚を巡る法制度、現存の福祉制度、既得権益団体の有無などの政治的・経済的な要因、経済危機の影響といった観点からの体系的な比較を試みた。
 これまでの福祉国家論は理論的傾向が北欧諸国の経験に偏っており、他地域での福祉政策の発達の説明に役立っているとはいえない。本研究では(1)南欧と東アジアの体系的な比較研究のパイオニアとなり、(2)家族主義の強い国々同士を比較することで、家族観という規範的な要因のみならず、政治的・経済的な要因がいかに介護ミックスの選択肢を規定するかを明らかにした。
 同じ家族主義的福祉国家でありながらも、なぜ日本では介護での脱家族化が進んだのに、保育では出遅れたのか、なぜ、日本よりも韓国で保育の脱家族化が進んだのか、なぜ、イタリアでは日本のような公的な介護サービスが発達しなかったのか、なぜ、韓国と同様にスペインでは制度改革のテンポが日本とイタリアと比べて速かったのか、を分析した。その結果、政策過程での決定権の集中後、既得権益の構造が大きな役割を果たすのではないか、との知見を得た。
 さらに、南欧では移民介護労働者を家族内で雇用でき、日韓では移民介護者への就労ビザがないが、後者では結婚移民のある部分は家族内で介護を担当していること、また、これらの結婚移民や就労ビザの取得で有利な立場にある在外の日系人あるいは朝鮮同胞人が、日本と韓国において介護労働者として介護施設で働いているケースもあることを確認した。これは、南欧と日韓の移民政策の違いとジェンダーの持つ意味合いの違いが寄与しているというのが、我々の分析結果である。



2015年8月

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