成果報告
2014年度
新たな歴史認識の構築:日本の台湾・朝鮮統治をめぐる政治経済的検証
- 甲南大学経済学部 准教授
- 平井 健介
【研究テーマ】
本研究は、政治外交史と経済史の複眼的視点から、戦間期における日本の対外関係(植民地を含む)を学際的・国際的に検証しようとするものである。経済史による戦間期に関する理解は、構造論的な把握が強い一方で、政策を左右した人的・政策的要因に対する関心が希薄となる。それに対して、外交史による理解は政治指導層の人的思考や政策に焦点を当てるものの、構造的要因となる経済要因に関する洞察が欠落しがちとなる。こうした傾向を踏まえ、本研究は、経済の構造的動態の双方を踏まえながら政治や経営の人的要因という観点からから対外進出、および植民地統治を子細に検証することを目的としている。
【研究の進捗状況と成果】
以上に述べた研究目的を達成するべく、本年度では次の活動を行った。まず、メンバー同士の研究領域に対する理解を深めることを目的として、隣接分野の研究者を招いての研究会を開催した。その第1回目が、昨年8月に開催された。日本の対東アジア関係に関する知見を拡げることを目的とし、政治外交史の分野からは湯川勇人(神戸大学大学院)が「対中勢力圏化構想と九か国条約――1930年代の対中政策と日米関係」について報告、経済史の分野からは山本裕(香川大学)をゲストスピーカーとして招いた上で「戦前期における『国策』概念の受容――新聞メディアの報道を中心に」という論題での報告をしていただいた。次いで、第2回目のより大規模の研究会は本年1月に、同社大学で開催した。日本の対南洋関係を一つのテーマとして設定し、政治外交史の分野からは酒井一臣(京都橘大学)が「文明の『ライン』としての南洋群島委任統治」について報告を行い、他方、経済史の分野からはゲストスピーカーとして招いた山口明日香(名古屋市立大学)が、「戦間期のトロール・汽船底引網漁業の発展と水産資源」、さらには木谷名都子(名古屋市立大学)が、「1930〜40年代におけるインドの対応――イギリス・アメリカ・日本との経済関係」という論題に基づいての報告を行った。そして、第3回目の研究会は5月に台北大学にて開催し、主に台湾側と韓国側のメンバーが現在の研究の進捗、および今後のプロジェクトに進行についての打ち合わせを行った。
くわえて、メンバーの研究成果も積極的に発信した。申請者である平井健介は、社会経済史学会近畿部会(2014年9月)において「1930年代中国の『経済的自立化』と台湾」を発表し、関西政治史研究会(2015年7月)において「日蘭会商と東アジア―『帝国』日本の国際経済環境―」を発表した。また、共同研究者の一部は、台湾開催の国際シンポジウムおよびアメリカ(ASPAC)とオーストラリア(ICAS9)で開催された学会に参加し、精力的に研究報告を行った。なお、発表準備のために、各メンバーは事前に国内外の図書館・史料館にて丹念な調査・収集を実施した。
【今後の課題】
本研究成果は、『戦間期における東アジア秩序の変容(仮)』(関西学院大学出版会)として、2017年度中に刊行されることになっている。それゆえ、今後の与えられた課題は、申請者・共同研究者の現在進行中の研究を仕上げながら、途中経過の研究報告を行い、最終的に原稿を完成させることにある。なお、次の研究会は、甲南大学にて11月に開催されることが決まっており、目下その準備を進めているところである。
2015年8月