1．研究目的
　本研究の目的は、「近年のジンバブエにおける政治・経済危機（ジンバブエ「危機」）」について、複数の研究者による多角的な実証的データをもとに検証し、「破綻国家」と呼ばれる状況下で生きる人びとの経験と認識を具体的に理解することにある。アフリカ南部のジンバブエは、とくに2000年以降、欧米先進諸国との関係が硬直化し、10年以上深刻な政治・経済危機に陥っている。2009年以降は与野党連立内閣発足と同時にハイパー・インフレが終息し、状況は以前よりも改善した。しかし今なお国の課題は山積し、米国のシンクタンクが発表する「失敗国家」ランキングで例年上位に位置づけられている。さらに2013年の大統領選挙では与党ZANU-PF、R．ムガベが圧勝で再選され、2018年まで引き続き政権を握ることとなった。
　近年のジンバブエ問題に関する議論は、過度に政治化される傾向があり、具体的な実態の把握が遅れてきた。本研究は、複数の研究者による多角的な現地調査の結果と、現地に住む人びとの認識を考慮し、具体的な実践や現実の複雑さを反映した近年のジンバブエ情勢（「危機」）の代替的理解を目指す。昨年度はハイパー・インフレなどで「危機」の状況がもっとも深刻だった2008年前後を中心に発表・討論をおこなったが、今年は2010年以降の展開に焦点を当て、昨年度の内容と比較検討することにした。

2．実施内容
　昨年度に引き続き、2015年1月8〜9日、ジンバブエ大学において国際ワークショップ“An Alternative Understanding of Zimbabwefrom the Local Point of View II”を開き、ジンバブエを調査地とする国内外の研究者12名が、それぞれの調査結果を発表した。

1. E. Musvosvi (Women’s University in Africa)
2. K. Mujeyi (University of Zimbabwe)
3. M. Bolt (University of Birmingham, UK)
4. M. Hayakawa (Kumeda Nursing School)
5. M.Sibanda and C.Tendai (Great Zimbabwe University)
6. O. Nyamwanza (University of Zimbabwe)
7. P.Nyoni (Walter Sisulu University, SA)
8. S.Gukurume(University of Cape Town)
9. S. Morreira (University of Cape Town, South Africa)
10. T.Manyati (IT company employee)
11. W. Z. Sadomba (University of Zimbabwe)

3．得られた知見
　2010年度以降の展開に焦点を当てた今回のワークショップでも、昨年度と同様にインフォーマル・セクターについての発表が多くあった。経済が外貨化され企業の業績や就業率が回復していると言われる中、人びとのあいだではむしろインフォーマル・セクターが以前よりも積極的に評価されているようである。白人少数支配が長く続いたジンバブエはアフリカ諸国のなかでも先進的な経済インフラを有し、80年代には男性の都市居住者はアフリカ系であってもほぼ正社員や公務員として正規雇用形態で働いていた。その後90年代に世銀とIMFによる構造調整計画が実施され、財政難の家計を補助するため都市に住む女性たちがインフォーマル・セクターで働き始めた。そして2000年代の「危機」下では、男性たちもインフォーマル・セクターで働かざるを得なくなった。南アフリカを研究する人類学者コマロフ夫妻は、世界は「南」へ向かって進化しているという（Comaroff and Comaroff 2011）。「危機」を経験したジンバブエの人びとは現在、従来の資本主義型発展モデルに現実味を抱けなくなり、フォーマル・セクターではなくインフォーマル・セクターによるもうひとつの発展のあり方を模索しているのかもしれない。（ComaroffJ. L. and J. Comaroff. (2011)Theory from the South, or, How Euro-America Is Evolving toward Africa? Paradigm Publishers.）

2015年8月