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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2014年度

与党事前審査制度をめぐる政府・議会・政党関係の学際的実証研究

学習院大学法学部 教授
野中 尚人

全体の取り組み方針
 本研究は、与党による事前審査制度について、国会での法案審議プロセス、与党の組織やガバナンスの構造との関連、国会法・規則などの法制面などを含めた多面的な関わり合いの状況、そしてそこから生じている様々な特質・問題について、政治学、憲法・法律学、行政学、歴史学といった研究分野をまたいだ形で研究することによって、総合的にその実態を解明することを目指している。また、研究手法として主要政党の実務担当者、さらには政党の幹部の人々からヒアリングすることによって、学際性に加えて実証のレベルを向上させるべく取り組んでいる。


研究の実施状況・進捗状況
 研究の進捗状況としては、準備会合での論点整理を踏まえて、衆議院と参議院の幹部実務経験者、自民党の実務担当職員からのヒアリングを行い、さらに、民主党の与党時代に党側での要職と大臣などを務めた政治家複数からもヒアリングを行うとともに意見交換を実施した。


これまでに得られた知見
 1年間の研究活動によって得られた情報と知見について、簡単に列挙すると以下のようになる。

1. 与党の事前審査制度は、単に与党の内部の仕組みとして存在しているのではなく、立法プロセスの全体的な構造と密接な関係があり、国会における法案の審議パターンと不可分の関係にある、ということが改めて極めて明確となった。まさに表裏一体であり、与党の事前審査制度と国会での極めて特殊な法案審議パターン(特に与党議員の極端な不活発さなど)とがセットなっていることが確認された。

2. 国会の内部における、いわゆる「国対政治」の実態に関わる分析的な研究はこれまで極めて少なかったが、その仕組みが、実質的に自民党内の派閥システムと極めて密接に連携していたことが明らかになった。この点は、与党事前審査の局面においては、政務調査会というアリーナと族議員の活動が重視され、従って「脱派閥」的な側面が強かったことと好対照をなすと言える。

3. 民主党時代の対応は、自民党が与党だった時代と比較した場合、様々な点で組織化・制度化が不十分であったことがほぼ分かってきた。民主党の与党政調は、一旦廃止された後、様々な議論を経て再び設置され事前審査を行うようになったが、自民党の場合と異なって不安定な状態が続いた。そしてその不安定さは、党内プロセスに続いて行われる国会での審議体制の弱体さ・不安定性と深く関連していたことが分かった。

4. 以上の諸点も総合して、結局のところ、事前審査による党内プロセスと国会での法案審議プロセスとが極めて密接にリンクしていること、並びに難しい国会でのプロセスをクリアする上で、自民党が派閥システムを活用することによって徹底的にコントロールする仕組みを構築していたのに比べて、民主党の側ではそのための考え方も組織体制の整備も極めて不十分だったことが明らかとなった。


今後への展望
 以上、与党による法案の事前審査制度と国会審議のあり方とが表裏一体の密接に関係にあることが確認された。また、特に自民党政権時代の法律案作成と審議のプロセスにおいては、党内ガバナンスの柱であった派閥システムが、政調会での事前審査段階ではなく、むしろ国会の内部において重要な役割を果たしていたことが分かった。
 これらの知見を比較政治学的な観点から、また憲法・国会法という法律学的な観点から改めて解釈し位置づける作業が今後の大きな課題である。また、こうした仕組みがなぜ、またどのようにして形成されたのかも重要な論点で、これについては戦前からの経緯を含めて歴史的な側面の検討を加えたいと考えている。


 
 

2015年8月


 

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