成果報告
2014年度
第一次世界大戦とアジア
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国際秩序の変容とナショナリズム ―
- 京都大学大学院法学研究科 准教授
- 奈良岡 聰智
第一次世界大戦(以下、大戦)は、欧米の歴史研究では「現代史」の起点と位置づけられ、大戦がもたらした巨大な変化について、早くから研究が進められてきた。現代世界の出発点としての大戦の意義は、21世紀の現在でも変わることはなく、むしろ今年大戦開戦100年を迎えるのを機として、新たな視点から問い直されている。これに対して、従来日本の大戦研究は、著しく低調であったと言わざるをえない。中国、インドなどアジア諸国と大戦の関わりに関する研究も、これまでそれほど活発ではなかった。本研究は、こうした研究状況を乗り越えるため、日本、中国、朝鮮、インドなど多様な地域の研究者を結集し、アジアが大戦とどのように関わったか、大戦がアジアに何をもたらしたかを分析した。
これまでの日本の大戦研究は、二十一ヵ条要求・西原借款・シベリア出兵などの個別事件史か、日中関係・日米関係・日英関係・日露関係といった二国間関係史の段階にとどまり、それら相互の連関を明らかにする、総合的な分析は十分に行われてこなかった。アジア諸国と大戦の関わりについては、大戦に起因する民族運動や独立運動が突出した地位を与えられる一方で、それ以外の面については、十分な内在的分析がなされてきたとは言い難い。本研究は、近年欧米で急速に進展している新たな研究成果を踏まえて、大戦と日本、アジアの関わりを、グローバルな視点から、地域横断的に検討した点に特色がある。
本研究の成果は、第一に、2014年8月にリュブリャナ大学(スロヴェニア)で開催された国際学会(European Association for Japanese Studies)、9月にルール大学ボーフム(ドイツ)で開催された第一次世界大戦に関する国際シンポジウム("The East Asian Dimension of the First World War: The ‚German-Japanese War’ and China, 1914-1919")において、研究代表者によって発表された。前者は、日本の大戦参戦の意義について、後者は大戦勃発時の在ドイツ日本人の抑留問題について検討したものである。いずれにおいても世界各地の研究者から多くの建設的コメントを受けることができ、有意義な場となった。
第二に、2014年11月に開催された日本国際政治学会において、部会「第一次世界大戦とアジア」で発表された。研究代表者・共同研究者は、同部会の準備の過程で討議を重ねた上で、「第一次世界大戦と日中関係――二十一カ条要求を中心として」(奈良岡聰智)、「第一次世界大戦と英印関係――植民地ナショナリストからみた帝国秩序」(上田知亮)、「第一次世界大戦後のアジア国際秩序とイギリス外交――アーサー・バルフォアの外交構想を中心として」(菅原健志)という三つの報告を行い、コメンテイターやフロアから有益なコメントを受けた。
第三に、2015年2月および6月に、京都大学において国際ワークショップ「第一次世界大戦とアジア」を開催した。いずれにおいても、各分野の大戦研究者を招聘し、大戦を多様な角度から幅広く検討した。
研究代表者は、以上の成果を踏まえて、単著『対華二十一ヵ条要求とは何だったのか:第一次世界大戦と日中対立の原点』(名古屋大学出版会、2015年)を公刊した。また、上記のシンポジウム、学会、ワークショップで報告されたペーパーを基にして、大戦とアジア、日本の関わりを検討する論文集出版の準備を進めている。今後、終戦100年にあたる2018年にかけて世界各地で様々な大戦関係の企画が予定されているが、本研究の成果は、そうした企画にもインパクトを与え、今後の新たな研究を促すものになると期待している。
2015年10月