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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2014年度

国際政治学における知的輸出のための若手研究者グループ形成事業・フェーズⅠ

英国エセックス大学政治学部 専任講師
千葉 大奈

 本研究プロジェクトは、アメリカ合衆国(以下、アメリカ)の強い知的影響下にある国際政治学の理論研究について、日本のオリジナルな視座を活かした先端研究を行う若手研究者をグループ化して、「ネットワーク」としてつなぎ、①英語で発信することを当たり前とする研究世代を生み出すこと、②日本の国際政治研究を広く紹介し、究極的には各国(特にアメリカにおける国際政治学)研究者に当該研究を引用させるような仕組みを見出すこと、を目標としてきた。具体的には、以下の三つの論点を据えて研究を実施した。
 第一に、安保理決議が一般国民に与える効果の多様性をめぐる研究である。仮想シナリオをインターネットを利用して被験者に読ませるサーベイ実験手法を用いる。従来、成功した決議の効果は分析されてきたが、拒否権行使事例の分析は乏しく、それらが武力行使容認の態度にいかに関係するのかを検討した。3次にわたる実験調査の結果、「正統性」の認識が国連決議の存在から得る情報としてもっとも大きいことがわかってきており、これを早急に国際ジャーナルへ発表することが重要と考えている。
 第二に、貿易をめぐる「比較優位」に関するインターネット・サーベイ実験を英国、エセックス大学・アメリカ、シラキュース大学・神戸大学の三研究機関共同で行った。貿易相互依存に対する理解度の違いに応じて、他国への強硬姿勢・タカ派的施策への支持・不支持が変わるのか、また、ヘイト・スピーチへの共感度が変わるのかを計測した。
 第三に、日韓関係に関するインターネット・サーベイ実験を実施した。日韓の懸案事項に関する反応の違いを実験手法を用いながら比較検討し、①相手の立場についてより理解的な態度を生み出す情報刺激、条件の判定、逆に、②相手国への譲歩や理解を阻む情報要因(テレビ視聴、ネット利用、人的なネットワーク)の特定を試みた。特に、国際司法裁判所の(仮想的な)判決が日韓領土問題の解決の道筋を開くものであるかを検討するユニークな実験を行ったが、この実験から得られた知見は、いわゆるリベラリズムの国際政治理論から相当にかけ離れたもので驚きを含むものであった。
 今後の課題は、日本人が主導的に国際共同研究を行う環境を整え、その研究成果を海外研究者に引用させる循環を定着させることにある。幸いなことに、本研究プロジェクトのメンバーのうち、千葉や多湖といった研究者の論文はアメリカやヨーロッパ、アジアの研究者から引用され、さらなる知識の蓄積や方法論的な革新のための基礎になっている。
 本プロジェクトは、研究テーマを幅広く設定し、英語で国際発信をすることを望む若手研究者には「入口」を広く開けている点で特徴がある。その結果、多くの大学院生やポストドクター学生がセミナー・ワークショップにおいて研究発表を行った。彼らが、今後の研究を国際パートナーと行う出発点を提供する機会になったと企画側としては自負している。特に、2015年4月の「Kobe Sakura Meeting 2015」におけるアカデミック・スピード・デーティング企画はその趣旨で意義が大きく、今後も類似の試みを行うべきであると考えている。
 幸い2016年3月にも同種の企画を実施する予定である。若手研究者によるこのような冒険的な試みに対して暖かいご支援を提供してくださるサントリー文化財団に心よりお礼を申し上げたいと思う。また、その御恩に報いるべく、しかるべき成果を挙げ、また日本の社会科学の国際的なプレゼンス向上のために努力したいと考える。

 

2015年8月

サントリー文化財団