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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2014年度

中国脅威論を超えて:「中国の台頭」をめぐる海外中国研究者との対話

東京大学大学院情報学環 教授
園田 茂人

1.研究目的と成果
 世界の中国研究をリードしてきた国・地域の中国研究者の第一人者を集め、それぞれの国・地域が中国の台頭をどのように捉え、どのようなデータや現実に依拠し、どのような枠組みから議論されてきたかといった、中国研究の基本状況を紹介しあうとともに、そこで見られる「温度差」を議論の対象とし、なぜこのような温度差が生まれているかを自覚的に討論することで、中国の台頭をめぐるより深い研究上の対話を進めていくことを目的としてきた。そしてそのため、論文の執筆・発表、学会大会でのセッション報告と総括討論を行ってきたが、これまでに得られた知見は以下の通りである。


1)中国の台頭に対する温度差は、地政学的距離によって大きな影響を受けている。たとえば、Pew Researchやアジア学生調査で用いられた「中国はアメリカに変わって世界の覇権国になるだろう」といった文言に対し、オーストラリアやアメリカで総じて賛成意見が強く、日本やフィリピン、マレーシアでは反対意見が強い。総じて、中国との距離があるところで中国台頭を肯定的にとらえる傾向がある(台湾は、その大きな例外)。

2)移民や観光の増加(オーストラリア、日本)、経済関係の強化(オーストラリア、台湾、日本。マレーシア)、主権への脅威(台湾、フィリピン、日本)、安全保障問題の緊張化(フィリピン、日本、アメリカ)など、中国の台頭が各国にもたらす具体的なインパクトは異なっており、脅威認識も、その具体的な顕現は国や時代によって異なっている。

3)中国の台頭が内政問題を引き起こした場合(あるいは内政問題と惹きつけて理解される傾向が強い場合)、中国への警戒感が強化される傾向が強くなる。その点で、台湾とアメリカは、中国認識が国内の政党政治と強い関係をもっているなど、政治的磁場が強い。

4)同じ国の中でも世代や階層などによって、中国の台頭は異なって認知・評価されている。たとえば台湾では、総じて世代が大きな影響を与え、(台湾アイデンティティを強くもつ)若者で対中警戒感が強い。またマレーシアでは有力華人間で中国評価が高いが、民主化を求める勢力では、中国評価は低い。

5)中国脅威論の多くは、中国の政治面に対する違和感・警戒感に端を発している。民主国家(アメリカ、日本、台湾、フィリピン、オーストラリア)は、単にアメリカとの軍事的同盟関係だけではなく、民主主義体制という共通性から中国への警戒感を強める傾向がある。その点、マレーシアは、権威主義的体制であることもあって、総じて中国脅威論の影響は薄い。

6)他方で、海外に流出するようになった中国系住民の増加は、「中国的文化帝国主義」の流出といった新たな問題を生み出しつつある。流入先の住民といかに平和的関係を構築し多文化主義を擁護できるかといった、中国国外の問題としても認識されるようになってきている。


2.今後の活動と課題
 すでに発表された5本の論文と1本の総括論文は、アジア政経学会の学会誌『アジア研究』の特集号として収録される予定となっている(別紙報告書参照)。これをもとに本の出版計画も議論されているが、そのためには韓国やベトナム、ミヤンマーの事例も入れるべきではないかといった意見が出されている。今後、これらの地域の専門家を巻き込み、英文書の刊行にまで繋げられるかどうかが、現在の最大の課題である。


2015年8月

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