成果報告
2014年度
アジアの経済発展の地球環境への影響に関する歴史的研究
- 政策研究大学院大学 特別教授
- 杉原 薫
1. 研究目的、これまで得られた知見
本研究は、過去20年ほどのあいだに急速に資源・エネルギーの輸入地域へ転落した成長アジアが、地球環境の持続性にどのような影響を及ぼすかを長期の歴史的視点から解明しようとするものである。最近の評価は、ここ数十年における成長アジアのパフォーマンスは「異常」であり、21世紀に高い成長率が他地域にも普及するとは思えない、むしろアジアの高度成長の大部分は、日本のように戦争からの復興といった事情があったり、開発独裁による「無理」を強行したりしたことによる、例外的なものだった、とするものが多い。だが、アジアの歴史的経験からの貢献を考えることはできないだろうか。
本研究は、アジア地域がモンスーン・アジアに固有の環境的特徴(水、肥沃なデルタ地帯の土地、森林を中心とするバイオマス資源と生態系など)に根付いた長期発展径路を育んできたことを踏まえ、欧米から移植された資本集約的・資源集約的な技術や制度を、地域の要素賦存状況に適したものに改変してきた歴史を取り出し、資源・エネルギー節約的発展径路が形成されたことを示すとともに、その他地域への適用可能性を示そうとした。
しかし、かりに資源・エネルギー利用の効率性を高めることによって、成長が地球環境に与える負荷をある程度緩和できたとしても、発展途上国の生活水準の向上や先進国の高齢化社会への対応のためには膨大な資源・エネルギーが必要であり、すでにローカル、リージョナルなレベルで持続不可能な状況に陥っているところも少なくない(環境研究によって「ホットスポット」と認識されている地域はアジアに偏在している)。本研究は、アジアが長期的に地域の資源制約をどのように克服してきたか、とくに域内交易(アジア間貿易)によって何を、どこまで克服でき、どこで躓いたのかを示そうとした。さらに、貿易財(化石資源、土地由来の第一次産品など)は工業化によって確保できても、非貿易財(水、ローカルなバイオマスなど)は同じスピードで確保できないことに注目し、工業化の環境・エネルギー的基礎の比較史的理解が喫緊の課題であることを指摘した。
2. 進捗状況、今後の予定
成果は内外の国際会議で報告し、英和両文で刊行した。とくに、Cambridge World Historyへの2本の論文の寄稿と、2015年8月に行われた世界経済史会議での多くのセッションでの討論によって、本研究の方向性が国際的に認知されつつある。また、日本はFuture Earthの世界ハブの一つとして、今年から10年間続く国際共同研究に参加しているが、杉原は、日本学術会議におけるFuture Earth推進委員会の副委員長として活動している。本研究が世界の公論形成に直接つながる道筋が、ささやかながら、つきはじめている。
2015年8月