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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2014年度

オリエントの東:トルコ国立宮殿局所蔵日本美術工芸品についての悉皆調査

イスタンブル工科大学 非常勤准教授補
ジラルデッリ 青木 美由紀

 オスマン帝国末期、近代化の象徴として建造されたドルマバフチェ宮殿をはじめとして、その後政治の中枢となったユルドゥズ宮殿(シャーレ・キョシュク)、ウフラムール離宮などには日本の美術工芸品が相当数所蔵されている。これらの宮殿は、現在トルコ国立宮殿局としてトルコ大国民議会直轄の期間として統括されている。本研究は、同宮殿局所蔵のオスマン帝国宮廷旧蔵日本美術工芸品、および、日本趣味で作られた外国製品の悉皆調査が目的である。
 昨年度からの継続研究として、作品調査は収蔵庫や非公開の部屋にある作品を主とし、同時に作品の入手経路、技法など背景の調査に重点を置いた。昨年度イスタンブルで行ったワークショップに引き続き、本年度は、将来の保存・修復に向けて、トルコの研究者に日本美術工芸品の歴史、技法や扱いなどの理解を深めてもらい、日本の研究者・技術保持者らとの交流をすすめる目的で、今年6月、ドルマバフチェ宮殿学芸員のデメット・ジョシャンセル氏を招き、東京(9日、東京大学)・京都(12日、京都女子大学)・有田(13日、九州陶磁文化館)の三カ所でセミナーを行った。それぞれ専門家にご参加いただき、東京ではおもに芝山細工・箱根寄木細工などの家具、京都では刺繍屏風・七宝、有田では有田焼・薩摩焼などの陶磁器作品について活発な議論が行われた。
 今年度の最大の成果は、オスマン宮廷への日本美術工芸品の導入の時期がより明確になったことである。従来の通説では、トルコ国立宮殿局所蔵の日本美術工芸品は、公式使節の贈答品の他、エルトゥールル号事件後来土し(1892年)、日土の民間大使として活躍した山田寅次郎が納入したものとされてきた。昨年度は、1894年の日付をもつ山田寅次郎から宮廷への納入リストを発見し、これを実証的に裏付けることができた。だが同時に、1887年納入の覚書きをもつフランス製(一点はガブリエル・ヴィヤルドーの署名あり)の日本風家具が三点見つかり、オスマン宮廷への日本趣味の導入は寅次郎より早かったのではとの疑念が起こった。
 本年度は、6月に行ったセミナーをきっかけに、現在ドルマバフチェ宮殿クリスタルの階段に展示中の有田鹿柄染付大花瓶対が、1873年ウィーン万博に出品されたものであることが出品当時の写真から判明し、同定された。万博後直接購入されたものか画商などの手を経たものかは不明だが、贈答品ではなく、購入品と明確にわかる希少な例である。これをもとに、オスマン宮廷の日本の装飾品への関心が、すくなくとも日本から最初の公式使節がイスタンブルを訪問した1873年には存在したことが判明した。従来の通説を一気に二十年ほど遡ることになる。また、オスマン宮廷における日本趣味の導入にとって、万国博覧会が大きく関与していたことが明らかになった。
 これらの成果は、『万国博覧会と人間の歴史―アジアを中心に』報告論集(思文閣出版、2015年9月刊)に寄稿したほか、近刊予定の拙著『伊東忠太のトルコ旅行(仮題)』(株式会社ウェッジ)でも一部とりあげた。さらに、9月16-18日ナポリ大学で開催の第16回トルコ美術国際学会に受理され、”A
Note on the “Orientalist” Taste in the Late-Ottoman Court: Japanese and Japonisme Objects in the Collection of Millî Saraylar”と題して発表予定である。
 サントリー文化財団からの助成は二年間の継続研究として終了したが、現在、総カタログの編集作業に入っている。カタログは、トルコ国立宮殿局より2016年をめどに出版されることになっている。将来的には、これらの作品の日本への里帰り展を実現できればと希望している。

 

 

2015年8月

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