成果報告
2014年度
3.11をめぐる「知識生産」と「社会実践」の架橋
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議題構築に注目して ―
- 総合研究大学院大学先導科学研究科 助教
- 標葉 隆馬
本研究の目的と進捗状況
東日本大震災と続く福島第一原子力発電所事故(以下3.11)は今もなおも現在進行形の問題である。本研究では、様々な専門家間のネットワーキングを進めつつ、3.11を巡る現場の専門性が見つめる課題とこれまでの学知の共有を行うことで、今後の3.11を巡る議題構築のあり方について検討する。
これまでに内部ミーティングに加えて、計5回、7名の講演者を交えた研究会を行った。登壇者は、宮城県・福島県の地元テレビ局・新聞社・ラジオ局で働くジャーナリストら、東京電力社員、被災者支援を行う弁護士、福島県立医科大学で放射線災害医療に携わる医療者、フィールドが被災することについて論考を出版している民俗学者であり、いずれも現場の状況に根差した問題意識の共有が行われた。
また第4回目の研究会は福島市で行い、研究会後に福島原子力発電所事故後に避難区域となった地域(福島県浪江町)へのエクスカーションを行った。
得られた成果と知見
研究を通じて得られた論点は多岐に渡る。被災者ならびに自然/原子力災害を巡る法制度上の問題、放射線を巡る「語り」を巡る相克、東京電力における組織と現場の課題、緊急被ばく医療を巡る反省・制度的不備など多岐に渡る。中でも現地の専門家が異口同音に語る3.11当時(そして3月15日)に感じたという、自らの専門性を超える事態に直面し沸き起こった「不安・恐怖」の語りは今後重要な切り口と言える。
また3.11の被害自体は現地で起きているものであるが、同時に東京電力は東京の会社であることも、この現地/中央におけるメディアフレーミングのギャップ拡大に影響したと考えられる。加えて、3.11(とりわけ原発事故や被ばくをめぐる)問題の語られ方/切り取られ方(フレーミング)自体が時間と共に変化したことで、問題における当事者性や距離感にも変化が生じ、論点の全体像把握の難しさと、現場と(特に全国の)メディアのフレーミングとの間の乖離が増大していったのではないかという問いが浮かび上がってきた。
今後の課題
代表者の所属機関の異動があったため、当初予定よりも研究の進捗が遅れてしまった。そのため実施できなかった研究会の実施を2015年度内に行い、知見の補完と総合討論を行う。また本研究で得られた知見を、書籍・論文等の形でまとめていく必要がある。本研究開始前に刊行した『ポスト3.11の科学と政治』(ナカニシヤ出版)の続編となる書籍の刊行をメンバー内で検討しており、書籍化を主眼とした成果発表を行っていく。
2015年8月