成果報告
2014年度
イギリスとアメリカの「特別な関係」から見る国際関係史
- 関東学院大学文学部 教授
- 君塚 直隆
①研究の進捗状況
本研究は「特別な関係(Special Relationship)」で結ばれているとされるイギリスとアメリカの関係を政治・経済・安全保障などの観点から、イングランドによる植民地化の時代から現代までの400年をスパンに、総合的に考察することを目的としている。
2014年度に開かれた5回の研究会では、研究代表者と共同研究者の合計8名に外部研究者2名にも加わっていただき、それぞれの研究分担を決めていくと同時に、史料や文献を渉猟し、最新の研究成果を随時報告しあってきた。これにより、「特別な関係」の実像が長期的な視点から考察することにより、これまで以上に鮮明に浮かび上がってきた。
②研究で得られた知見
英米の「特別な関係」をとらえる上でこれまで強調されてきたのは、両国が同じく英語を使い、ここ200年(19〜20世紀)の国際政治において「覇権国家」と呼ばれ、現代の自由主義的な国際秩序や制度の推進主体となってきた点にあった。
本研究で400年のスパンをとってあらためて探究してみると、英米の結束はつねに強固であったわけではなく、敵対するような時代のほうが長く続いていた点が明らかとなった。しかし両国は、①共通理念(自由主義や民主主義など)、②共通の脅威(ナチスドイツやソ連など)、③共通の制度(国連やブレトンウッズ体制など)、④人物的側面(チャーチルとローズヴェルト、サッチャーとレーガンなど)という四つの要素が、どのように作用するかで、時代により親密さや敵対関係の濃淡が見られることも理解できた。
「特別な関係」という言葉それ自体は、1940年代後半から使われるようになった比較的新しい概念であり、50年代半ばや60年代後半には英米関係の悪化でそれが否定されるような局面も見られたが、戦後の国際経済秩序の形成などにあたっては、21世紀の現在でも両国の「特別な関係」は続いていると言える。
単に言葉や文化的な背景だけではなく、その時々の国際情勢や政策決定者たちの動きを長いスパンで捉えることによって、英仏関係や日米関係などとはまた異なった性格や歴史をもつ、英米関係の諸相を明らかにできたものと考えられる。
③今後の課題
2014年度の研究成果をふまえ、今後はより多くの史料や文献を読み込み、さらに議論を重ねることによって、『イギリスとアメリカ-国際秩序を形成した400年-(仮題)』という共著を刊行していく予定である。刊行については勁草書房が引き受けてくださることになっており、全10章(+序章)の原稿もほぼ完成している段階にある。学術的に高い水準を維持しながらも、学生や一般の方々にも読みやすいものとして、英米関係の通史に基づいて近現代国際政治を広く深く読み解いていける著作にしていきたい。
2015年8月