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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2014年度

カタストロフ(天災・人災)以後の都市文化変容にまつわる国際的学際的研究

ロンドン大学ゴールドスミス校大学院 特別研究員
岩城 京子

(1)研究成果
 本研究の目的は、世界各地で「日常的に頻発するカタストロフ(天災・人災)」が各国の都市文化に与える影響の類型と、それら変容する文化所産が反映する想像的/創造的ナラティブを比較分析し、複数の都市に共通する(あるいは異なる)カタストロフ以降の文化の型の抽出を試みることにある。カタストロフ(天災・人災)による被害状況を定量的に調査する研究学会は多く存在するものの、数値化が困難な演劇、舞踊、文学、映像、建築などの文化の変化状況を質的に分析する研究グループは類例が少ない。そのため、当研究では分野を超え様々な文化領域での研究に携わる共同研究者、また、随時参加した外部研究者などと知の交流と議論を深めた。2月にはロンドン大学ゴールドスミス校にて共同研究者主催によるシンポジウムを実施。社会文化的背景の異なる各都市(東京、シンガポール、ソウル、ロンドン、リスボン、ヘルシンキ、テヘラン、ベイルート、アンゴラ)から生成された文化所産を発表、分析、議論した。


(2)得られた知見
 ギリシャの語源を辿れば、カタストロフ(Katastrefein)とはつまり世界の転覆を意味し、ギリシャ悲劇などで多くそれら事例が描かれてきた。つまり文化研究的見地に立てばカタストロフとは、大衆の想像装置によって可視化されることにより、世界を転覆させるほどの天災・人災であったとはじめて事後的に定義付けされるものといえる。つまりカタストロフとは、一回性の出来事ではなく、文化社会的パフォーマンスの繰り返しにより生成され続ける連続的事件であるとも換言できる。この「文化社会的パフォーマンスとしての連続的カタストロフ」の痕跡は、第一に建築・開発などを経た都市空間に、第二に言語・映像などのメディア空間に、第三に言説・物語を紡ぎあげる際の歴史空間に表象されてくる。その空間的結節点に生まれる芸術文化の具体的事例(「福島以後の不可視な戦と、感性の覚醒としての演劇」、「シンガポールの社会参加型芸術における支配・被支配の再演」、「レバノン戦争以後のメディア・アートの介入と策略」など)が深耕されることにより、芸術文化がどのようにカタストロフを再生産しているか、という重要性が指摘できた。同時に、三空間から派生する不可視な影響への自覚性の有無により、その都市文化がカタストロフの加担者になっているか否か、また芸術家の加害・被害の枠組はどのように定義できるか、という議論もなされた。


(3)今後の課題
 上記得られた枠組のブラッシュアップが喫緊の課題であり、その枠組を固めたうえで、特に都市開発、メディア、歴史学の研究者を交えてのさらなる超領域的な研究が必要とされる。またカタストロフは一過性の事件ではなく 、継続的なパフォーマンスによりナラティブが紡がれていくという立地点から、各国の想像力に抗い且つ生成する芸術家との密な対話が必要とされてくる。


2015年8月

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