成果報告
2014年度
若者の自由空間とガバナンス
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1970年前後から現在まで ―
- 京都大学大学院文学研究科 教授
- 伊藤 公雄
本研究では、若者のカウンターカルチャー運動を、自由空間のガバナンスという観点から調査分析を行っている。
日本を対象にした研究では、京都大学西部講堂を対象に、1970年代前後からの活動状況についての聞き取り作業を進めつつ、主に西部講堂連絡協議会の活動と西部講堂運営のガバナンスについて分析作業を進めている。現在までに得られた知見としては、まず、1970年代前後の若者のカウンターカルチャーにおける京都の独特の位置ということがあげられる。東京を中心とした若者文化の創造性が、いち早く消費文化化されていくのに対して、西部講堂の活動は、あくまで非商業主義を貫くかたちで運営されてきた。東京からの一定の距離、また学生の街という立地条件、さらに管理主体の京都大学との関係などから、京大西部講堂の自主管理は、一定の持続性を担保しているといえる。
ヨーロッパの調査は、主にイタリアにおける社会センタ―を対象として実施した。イタリアには、現在も著名なものだけで100以上の社会センタ―がある。空き工場や空き倉庫、空き別荘などを占拠し、それを自主管理しつつ、多様な文化活動(コンサートや演劇、展示会など)が今なお継続されている。ヨーロッパにおけるこうした自主空間の背景には、若者の失業率の高さや貧困問題、文化活動を享受するのに高額な費用がかかることなどが控えている。また、居住権が保証され、一度占拠すると、所有者の直接介入がむずかしいといった事情もある。
今回、イタリアのヴェネト地域を中心に、複数の社会センタ―について訪問調査とインタビューを実施した。1980年代の空き別荘占拠の経験をもつヴェネツイア大学の中堅教員のインタビューからは、当時の空き別荘占拠運動の経過と、その後の運営および文化活動の実態についての多くの情報をえた。また、現在、空き倉庫を使ってアート展示をしている社会センタ―では、占拠後、所有者と行政の三者交渉を通じて、低料金で賃貸契約を行い、自主管理が行われている実態について聞き取りができた。大学の中庭を占拠している学生グループからは、地域住民や地域の子どもたちを巻き込んだ中庭の共同管理など興味深い実践についてインタビューをすることができた。
それぞれの自由空間は、運営上の独自のルール(ハードドラッグの持ち込み禁止、マフィア等犯罪組織の排除など)をもつことで、一定の秩序を維持していた。また、現在、社会センタ―の実践がほぼ半分以上が女性の手によって担われている点(1980年代の自由空間についてのインタビューでは、参加者の圧倒的多数が男性であったという)もきわめて興味深いものであった。行政機関の対応の柔軟さなどを含め、イタリアにおける自由空間の実態が明らかになりつつある。
2015年8月