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研究助成

成果報告

若手研究者のためのチャレンジ研究助成

2013年度

国際危機における外交交渉理論の実証研究
― 米国外交文書へのテキスト分析の手法によるアプローチ ─

スタンフォード大学大学院政治学科 後期博士課程3年
片桐 梓

研究目的・動機

・既存の米国の計量的な手法による国際政治学の行き詰まり。1980年代以降、米国を中心に盛んになった計量政治学的手法による国際紛争や国際危機下における外交交渉の研究では、国家間関係を研究するためのミクロレベルのデータが圧倒的に不足している。


・日々、大量に作成される外交行政文書、本国政府・在外公館間で交信される外交電報を対外政策判断や状況変化を捉えうるビッグデータとして扱い、新たな国際政治学研究の方向性を拓く。


手法

1.第二次大戦後の米国政府による公開済の膨大な外交文書の一部をデジタル化し、テキストデータに変換する。


2.近年、発展してきているテキスト分析、及び統計的予測ならびにパターン認識の手法である機械学習を用いて、従来の実証研究では観測できなかった政策決定者の議論のパターンや彼らの認識に焦点を当て、時系列データ化する。これらが実際の政策決定にどのように影響を及ぼしたかを統計的手法で分析する。


研究課題
「冷戦化における米国政府内のソ連・東側陣営に対する脅威認知と国際危機の研究」【実施済】
<主な結果>

1.テキスト分析及び機械学習の手法を用いることで、米国政府内の東側陣営への脅威認知を数量化し、分析可能なデータを構築することが可能になった。機械学習のアルゴリズムはランダムフォーレスト・モデルを使用。【以下の表参照】


2.基本的な時系列データ分析の結果、米国の政策決定者の脅威認知は、実際の東側陣営の敵対的行動よりもかなり前に高まる傾向があること、及び敵対的行動の後には脅威認知は全く高まらないことが統計的に確認された。この知見は、実際の政策決定者にとっては何ら目新しいものではないが、実際に体系的にデータを用いて実証できたことは極めて意義深い。とりわけ、外交政策当局者による有事の事前察知・迅速な対応ができていない、事後的対応に終始することが多いといった一般的な外交当局への批判に対する、明確な反証となっている。


3.イベントデータに基づく敵対的行動のみを用いて、東西陣営間の相互作用を明らかにした従来の研究に対して、米国政府側のデータのみであるという制約はあるものの、脅威認知という不可欠な変数を新たに測定し、統計モデルに盛り込んだことは、今後の国際政治学研究への大きな貢献であると考える。


今後の課題

・これまで得られた結果から、国際政治学におけるテキスト分析及び機械学習の手法により、これまでデータ化が不可能であった様々な概念や政策決定者の認識、政府内の議論のパターン等を数量化できる出来ることが明らかとなった。この手法を応用することで、長年研究が停滞していた対外政策決定の実証研究に、新たな分野を開拓することが今後の課題である。


米国政府内の対ソ連脅威認知の推移(1952-1976年)
The Foreign Relations of the United Statesを基に機械学習の手法を用いて作成。


ソ連から米国に対する敵対的行動の推移(1952-1976年)(from COPDAB data)


2015年5月

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