成果報告
2013年度
芝居町道頓堀の復元的研究と都市再生
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CGによる地域文化景観の復元 ―
- 関西大学文学部教授
- 藪田 貫
≪本研究の目的≫
本研究の目的は、大阪有数の名所であり、海外にも知名度の高さを誇る道頓堀を「都市遺産」と位置づけ、芝居町から食い倒れの町という景観変遷の観点から文理総合で調査・研究を行い、地元である道頓堀商店会と連携することで、その成果にもとづいた道頓堀の都市再生の可能性を提言することにある。
2011年度の採択以来、継続して進められてきた本研究は、初年度のCG「道頓堀五座の風景」の制作、二年度の「大阪の劇場大工 中村儀右衛門資料」(以下、中村儀右衛門資料)の基礎調査を経て、今年度の課題は、①CGの検証と新CG制作に向けた準備、②中村儀右衛門資料による芝居小屋CGの復元、③中村儀右衛門資料「大道具帳」による劇場意匠のデジタル化とした。
≪研究の成果≫
本研究の成果は、基礎調査を経て活用の段階に至った中村儀右衛門資料をもとに展開された。第一に、浪花座復元模型(1/30)の制作は、設計図面・建築仕様書などをもとにした成果である。中村儀右衛門資料には、明治43年新築時の洋風仕様・和風仕様の図面があり、古写真などから実際に建設されたのは和風仕様のものであったことがわかるが、同時期に大阪の藤田組によって秋田県小坂町に建設された康楽館(重要文化財)などの実例から、道頓堀でも洋風劇場が計画されていたと考えられる。同館の紹介によって青森県在住の古民家模型製作者に依頼し、洋風の「幻の浪花座」を復元した。第二に、「大道具帳」データベースの制作は、舞台背景画の下絵である132点をもとにした成果である。『近代歌舞伎年表 大阪篇』と照合し、演劇史や劇場意匠研究にとって有益となるものを目指して制作中である。そのベースとして「中村儀右衛門日記」の翻刻が進められたが、明治期の芝居町道頓堀をめぐる動向をも浮かび上がらせている。模型制作・データベース化は、現在公開中のCGの検証と新CG制作に向けた準備の一環として行われたが、あわせて「芝居町道頓堀の記憶」をたどる聞き取りも行った。4回目となる地元道頓堀での道頓堀連続フォーラムでは、中村儀右衛門氏の子孫などから、かつての芝居町としての息づかいが伝わる証言を得た。また、劇場内部のCG化に向けて康楽館の全面的協力のもとで行われた同館内部の動画撮影は、細かな意匠など新たな課題を見出す機会となった。
これらの成果については、道頓堀連続フォーラムやなにわ歴史シンポジウム、グランフロント大阪のナレッジキャピタルで公開されたほか、これまでの成果を一堂に会した展覧会を大阪市立住まいのミュージアムで開催し7,434名の入館者を得た。海外からの入館者も多く、海外にも知名度が高い道頓堀の国際性が浮き彫りとなった。関西大学大阪都市遺産研究センターと共催した研究例会では、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学の日本学教授を招き、本研究をもとにした都市再生の国際比較や海外への発信について討議した。大阪の都市遺産である道頓堀が、日本だけにとどまらず、海外への発信力を有すると認識したことは、地域社会と文化に関する本研究にとって発展的成果といえる。
≪今後の課題と展望≫
今後の課題としては、本研究によって明らかとなった点を聞き取り調査などによって考証するとともに、道幅などの現地調査などを行って、新CGを制作するとともに、引き続き、道頓堀商店会と連携して、芝居町の記憶を核としたビジョンを提示し、道頓堀の都市再生に寄与したいと考えている。
2015年8月