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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2013年度

地域ミュージアムの活性化とミュージアムを活かした地域振興

全国ミュージアム活性化協議会 事務局長
藤原 洋

≪研究概要≫

 2011年9月、全国地域ミュージアム活性化協議会を設立した。その後、「ミュージアムからの観光振興」「テーマ連携」「MLA連携」「ミュージアムからのまちづくり」「国際情報発信」について調査・研究・普及活動を行ってきた。

 本研究においては、特にミュージアムを中心とした地域文化から、持続可能な地域づくりのための手段について研究を行った。


(1)文化と経済のパートナーシップ

 地域ミュージアムを拠点とした地域づくりでは、「文化」と「産業」という異質なものをつなぐブリッジとしての「交流」を手段に地域の活性化を図っていくことを目指してきた。地域の特性を安易にテーマパーク化するのではなく、長きにわたって継続し、発展させていくことが重要である。

 そのために、地域に根付いた文化を正しく「保存・公開」し、これを「再評価」により価値を高め、「発展」させることによって地域活性化に寄与させていくプロセスがある。「保存・公開」「再評価」までのプロセスは文化事業の領域で実施できるが、「再評価」から「発展」へのプロセスが多くの地域で未開発である。「再評価」から「発展」へのプロセスは、文化が再生産力を持つということであり、経済活動へ発展していくことである。こうした面からみると、日本の政策は文化庁と経済産業省といった省庁の壁が一連の継続的なプロセスを阻んでいる。例えば台湾では、国のプロジェクトとして文化創意産業発展法を制定し、文化の再評価から経済活動へのプロジェクトを展開している。日本において「再評価」から「発展」へのプロセスを実現することは容易ではないが、このことが個性ある地域の魅力をもって、地域を活性化するものと考える。


(2)「ミュージアムからの地域づくり」への担い手

 ミュージアムを拠点と考える時、これまで学芸員や館長など施設や活動の中心にある人を対象としてきたが、実際に地域へと文化活動を波及させるとき、設置者である自治体の実務責任者やミュージアムの総務担当者、あるいは地域で活動する青年会議所や経済団体の理解と関与が重要である。地域内において、「補完と連携」を見る時、こうした連携のきっかけとして、観光や旅行といったプロジェクトに取り組むことが有効であろう。


(3)ミュージアム連携の可能性

 小規模自治体にあるミュージアムは、地域のアイデンティティを形成し、地域の文化を次世代に継承するといった目的をもって設立されたものが多い。これは非常に重要なことであるが、今一度、地域の歴史や文化を振り返ると、それは地域内で完結するものでは到底なく、多くの交流や交易、人や物資、技術、芸能の交流をもって形成されてきたものである。地域の歴史・文化をより大きな視点で再評価することによって、その魅力は増していくはずである。

 そこで、各地のミュージアムどうしが連携することが広範な視点で地域を見ることができる。私たちがその事例として検討しているのが北前船連携である。北前船は、地域個性の「違い」を「利益」に結びつけた商社の役割を果たした。この視点をもって、ミュージアム連携を図り、そこからミュージアム・トラベルを開発するための調査・研究を進めている。


(4)知的観光地形成へのプロセスとしてミュージアム・トラベル

 ミュージアム・トラベルとは、その場に立って五感によって地域を知る知的な旅の形である。ミュージアムのコレクションとしての「もの」と調査・研究・公開されている「情報」、そして地域にある「時空」とを結び付けて総合的に楽しむ知的な旅を提案していきたい。昨年、実験的に「食」を前面に打ち出したツアーも試行した。学びの「もの+情報+時空」をいかに楽しく提供できるか、今後とも旅行商品の開発に取り組んでいくこととしている。


(5)ミュージアム・トラベルの展開手法

 次に、ミュージアム・トラベルをどのように提供していくか、その手法についての検討を行った。ここでは、大手旅行会社や国際的なネイチャーツアーの実践者、Web事業者を交えて専門的な検討を行った。インターネットサイトから、ミュージアム・トラベルの商品を提案し、旅行として実施していく手法を検討している。現在のところ、旅行だけでの事業性には課題が多いが、知的な観光という視点から見ると地域への経済波及効果には期待できるものがあり、地域内での連携、地域外との連携、そしてミュージアム連携をとりながら、地域ミュージアムからの地域再生を試みていきたい。



2014年12月

サントリー文化財団