成果報告
2013年度
日中両国の東アジア地域外交に対する規範的研究
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政治・経済分野を中心に ―
- 名古屋商科大学コミュニケーション学部 准教授
- 兪 敏浩
本研究の主旨
21世紀初頭に盛り上がりを見せていた東アジア地域協力は停滞状態に陥っている。この原因について日中間のパワーシフトに伴い、対立のベクトルが協調のベクトルを凌駕したとみる向きが多い。また中国台頭が将来の地域秩序に不確実性・不透明性をもたらしていることも指摘される。こうした視点は国際政治を権力というプリズムのみで観察するものであり、必ずしも十分とはいえない。本研究では、規範構築→秩序形成→地域安定という明快な理念型の研究目的を持ちながら、秩序が基づくべき規範の問題に研究の視座を置く。
研究経過
昨年複数回の研究会を経て、本研究プロジェクトの参加者は次のような研究方向性を共有することができた。①東アジア地域秩序に関する研究は日進月歩の進展を遂げており、近い将来も多数の研究成果が公開されることが予想されるなかで本研究のオリジナルティを維持するためには規範論的アプローチを貫徹すること。②規範とは、秩序形成と直接・間接関連する一貫した政策主張、行動基準・原則、その他の概念的要素(理念、信条、認識)を網羅した、緩やかかつ幅広い概念であり、規範理論の許容しうる範囲内で、研究の必要性に応じて各自定義を下すことが可能であること。規範論的アプローチのみが各研究における共通項であり、結論およびそれに至る因果関係分析については、権力政治、制度主義など多様な手法が認められること。
以上の研究方針を共有しつつ、今年に入ってからは各自のテーマについての個人研究を中心に共同研究に取り組んでおり、これまで二人のメンバーから個人研究成果が報告された。8月末にさらに2名、そして今年12月までには参加者全員の研究成果が報告される予定である。参加者全員の研究報告が終わってから、研究体制を作り直し、学術書出版へ向けての準備を始めたい。
これまでの研究で得られた知見
日中両国の地域秩序構想においては、対立の一面と共働の一面が併存するのが実態である。昨今のパワーシフトの影響を受け、健全な競争関係も対立の文脈で解釈されるなど、対立する一面が実態以上に強調される傾向がある。こうした落とし穴から脱却するためには、主導権争いという視点ではなく地域公共財の創出という視点から地域秩序形成を考え直さなければならない。地域公共財の創出においては競争と協調は両立可能であるからである。そのためには、問題領域別に日中両国に政策主張の根底にある規範が親和的か、補完的かなどを明らかにする必要性がある。
権力政治の要素と規範をどのように結びつけるかについても有益な研究が行われた。将来のパワーバランスの変化の可能性に応じて東アジアの地域秩序に関する六つのシナリオを描き、それぞれのシナリオにおける規範の競合、衝突、相克、協働のメカニズムを考察する必要性が確認された。
2014年12月