成果報告
2013年度
現代日本の統治システム変容についての実証的分析
- 東洋大学社会学部 教授
- 薬師寺 克行
研究概要
本研究は1990年代以降を中心に、国内政治や内政外交の主要な政策決定過程などを当事者にオーラルヒストリーの手法を用いて直接伺い、現代政治史研究の新たな史料とすることを目的としている。2年度にわたって助成を頂いた結果、合計で延べ19回のインタビューを行うことができ、注目すべき証言や事実関係の確認などを得ることができた。
1年目の2012年度は90年代の政治改革や政権交代期の動きなどを中心に当事者に話を聞いた。2年目の2013年度は、小泉内閣以降を中心に政権中枢の意思決定のシステム、個別の重要政策への対応などを聞いた。
野田佳彦元首相は、消費税率引き上げについて強く反発する小沢一郎氏らの勢力との党内調整をあきらめ、自民、公明両党との合意形成に踏み切った経緯を克明に語った。また、中国や韓国との外交関係悪化の裏で極秘に進めていた関係改善のための外交交渉などの新事実も明らかになった。加えて中国との外交関係については、阿南惟茂、宮本雄二氏の2人の元中国大使が歴史的経緯も含めその難しさと、現代の中国政府の意思決定メカニズムや対外政策の特徴などを体験に基づいて解説してくれた。
衆議院委員部長の紅谷弘志氏は膨大な資料を持参の上、90年代以降の国会における与野党間、あるいは自民党と他党との連立合意、国会改革に関する様々な合意文書の内容などを、その経緯と主に説明してくれた。多くが政治的妥協の産物ではあるが、党首討論、政府委員の国会答弁の廃止など今日の国会における質疑の質に大きな影響を与えた改革などもある。
二橋正弘、古川貞次郎氏の2人の元内閣官房副長官は、首相官邸における主要政策などについての意思決定の仕組みが90年代以降、大きく変貌したことを明らかにした。かつては各省中心に政策の企画立案、決定が進められており、首相官邸の力は相対的に弱かったが、小泉内閣以降は首相官邸が大きな役割を果たすようになり、特に内閣官房長官の比重は格段に増してきている。
全体を通じて、統治システムそれ自体は首相官邸を中心に権力の集中が進んでいるが、一方で、小選挙区制度の導入を受けて政党の関与の仕方が問題の本質論よりも有権者の支持を重視する大衆迎合的傾向を強めてきている。こうした傾向が民主党内閣でピークに達し短期間での政権崩壊につながった。それを受けた安倍政権の統治システムがいかなるものであるかは今後、それまでの政権との比較を含めて研究することが必要になるであろう。
2014年12月