成果報告
2013年度
ジンバブエ「危機」の実証的研究:多角的なフィールド結果にもとづく「崩壊国家」の代替的理解
- 大阪大学グローバルコラボレーション センター 招聘研究員
- 早川 真悠
1.研究目的 本研究の目的は、近年のジンバブエ共和国における政治・経済危機について、複数の研究者による多角的なフィールドワークの結果をもとに検証し、「破綻国家」を生きる人びとの経験と認識を具体的に理解することにある。
アフリカ南部の国ジンバブエは、2000年に政府が実施した急進的土地改革を契機に、欧米先進諸国との関係が硬直化し、政治暴力やハイパー・インフレなど深刻な政治・経済危機に陥った(「ジンバブエ「危機」」)。ジンバブエ「危機」に関しては、これまで学術界や報道業界でさまざまに論じられてきた。しかし、残念ながらそれらの議論は、過度に政治化・単純化される傾向にあった。たとえば米国のシンクタンクが発表する「破綻国家」ランキングでは、ジンバブエは例年上位に位置づけられている。ジンバブエに関して、言わば外部の視点からの否定的な評価や認識が広まる一方で、フィールド調査にもとづく具体的な実態の理解は遅れてきた。これらの背景と問題点を踏まえ、本研究は、複数の研究者が実施した多角的な現地調査の結果を持ち寄り、実際の現場の具体的な状況や現実の複雑さを反映した、ジンバブエ「危機」の代替的理解を目指す。
2.進捗状況 この目的のために、本研究の共同研究者たちは、2014年1月9日(木)〜10日(金)、ジンバブエ大学に集まり国際ワークショップ(An Alternative Understanding of Zimbabwefrom the Local Point of View)を開いた。ワークショップでは、2005年〜2010年の時期にジンバブエ国内で現地調査をした研究者11名が、それぞれの調査結果とその分析を発表した。また、座長をつとめたジンバブエ大学所属の4名の研究者、および聴講者も交えて討論をおこなった。
【発表者】
1. Worby, E. (Wits University)
2. Musvosvi, E. (Africa University)
3. Jones, J. (Holy Cross College)
4. Mujere, J. (University of Zimbabwe)
5. Mujeyi, K. (University of Zimbabwe)
6. Sibanda, M.(Great Zimbabwe University)
7. Hayakawa, M.(Osaka University)
8. Nyamwanza, O. (University of Zimbabwe)
9. Morreira, S.(University of Cape Town)
10. Gukurume, S.(Great Zimbabwe University)
11. Manyati, T. (University of Zimbabwe)
3.得られた知見 ワークショップのGeneral Discussionでは、じっさいの「危機」下の状況の複雑さや多様さと、それを記述・表現する難しさが再確認された。発表ではさまざまな立場の人びと(都市貧困層、都市富裕層、農村住民)が、「危機」的状況下で見せた反応を「戦略(strategy)」として報告するものが多かった。しかし、人びとのとった行動には、非合理的なものや必ずしも利益や効果に結びつかないものもあり、一概に「戦略」と理解するのは無理がある。フォーマルセクターの衰退やハイパー・インフレの状況下で、事態は急激に変化した。人びとが抱える問題、置かれた状況、状況に対する認識や持ち合わせる方策はさまざまで、人びとの選択や行動がもたらす利益や効果は定かではなかった。それでも、一見すると渾沌とした状況下で、そこに住む人びとは何かしらの秩序を作ろうとしていた。「危機」についてより深く理解するには、人びとの多様な反応を当事者の視点から理解し、外部からは無秩序に見える状況が、理解可能になるような枠組みを検討し呈示すること重要である。
4.今後の予定 今回のワークショップで発表されたペーパーは、ある学術雑誌の特集号として掲載される予定である。2015年にも再度ワークショップを実施し、次回は2010年以降の展開に焦点を当て、2010年以前との連続性と非連続性について考察する。
2014年12月