成果報告
2013年度
21世紀東アジア地域システムの生成
- 京都大学東南アジア研究所 教授
- ハウ・カロライン・シー
(1)研究進捗状況
2014年1月、第一回目のセミナーを開催、「問題の所在」、「プラザ合意以降」をテーマに報告と討議を実施。本報告を基礎に、これまでに「序章、問題の所在」(原稿用紙400字、32枚)、「第一章、プラザ合意以降」(232枚)を作成した。第一章の構成は「証言」「アメリカのマクロ経済動向」「プラザ合意からルーブル合意へ」「バブル」「ブランドの民主化」「生産ネットワークの地域化」からなり、基本的に1980年代の米国のマクロ経済政策(ポール・ボルカーFRB議長時代の米国の金融政策とレーガノミックス)とプラザ合意以降の国際経済協調の文脈の中で、日本の経済運営、社会的変化と東アジアの地域化を理解しようとするものである。なお、本章のうち、「バブル」、「ブランドの民主化」の2節では、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』とジュディス・クランツの小説を論じ、また、ルイ・ヴィトンを事例として「ラクジュアリー・ブランドの民主化」について論じているが、この2節は英文原稿も作成しており、これは別途、英文ジャーナルに出版する可能性がある。
また、「第三章、開発主義国家再訪(developmental states revisited)」の一節「マルコス体制の終焉とフィリピン革命(1986)」(英文)を作成した。ここでは、フィリピン革命に至るフィリピン政治経済の軌跡を辿るとともに、これを契機として米国の民主化プロジェクトが変容し、また「開発国家批判」の武器としてcrony capitalismが登場したことを明らかにする。本章では、フィリピンに加え、韓国と台湾を事例として検討する予定である。
(2)これからの予定
2015年1−2月に第二回目のセミナーを開催、この報告を基礎に「第二章、庭いじり(gardening)」を作成の予定である。本章では、クリントン政権の成立とともに、米国の大戦略(grand strategy)がどのように変化したかを検討し、そうした戦略的転換がアジアにおける地政学的構図の変容をもたらすものではなかったことを明らかにする。また、レーガン大統領からブッシュ大統領の時代(1981−1992年)のアジア政策については、レーガン大統領の国務長官を務めたジョージ・シュルツがその回顧録で外交の「真髄」として語る概念、gardening(庭いじり)を鍵としつつ、アメリカのアジア経営と日本の対応を考察する。
さらに、本研究プロジェクトでは、第4章以降、「中国の変容」「戦場から市場へ」「アジア経済危機」「ひとつの時代の終わり」の4章を作成の予定であるが、その作成は2016年以降となる。また、各章が予想以上に大部となる可能性が大きいため、第二章完成時にシリーズとしての出版を考える。
2014年12月