成果報告
2013年度
国際安全保障をめぐるアメリカ知的覇権への挑戦:日英の視座融合による共同研究(第二フェーズ)
- 神戸大学大学院法学研究科 准教授
- 多湖 淳
本研究プロジェクトは、アメリカ合衆国(以下、アメリカ)の強い知的影響下にある国際政治学でも安全保障分野について、日本と英国の視点を融合させ、両国の関心が重なり合う三つの論点(①民主主義のタイプ・世論と武力行使の関係、②同盟の運営管理、③人間の安全保障と内戦)について、理論的に実証的に斬新な共同研究を実施することを目的とした。
研究ペーパーを発表し合う合宿型の研究集会(KUBECセミナー)を2014年夏にブリュッセルの「神戸大学欧州オフィス」において開催した。国際政治学はアメリカの学問とされて久しいが、日英の視点を融合させ提示することで、安全保障分野におけるオルタナティブな理論・実証研究を国際的に問うことを目的とした。
具体的な成果としては、たとえば①については、日英共同で実施した、尖閣諸島をめぐる日中関係に関するサーベイ実験の知見がある。日本と中国の間で発生した架空の危機シナリオを踏まえ、一般の市民がどのように政策評価を行い、かつ政府への支持を決定するのかを検討した。いわゆる「旗のもとへの結集効果」(強硬路線で相手国に対抗すると政治リーダーは国民的英雄視されて政府への支持が高くなるという効果)の存在を確認し、無政策・無対応への批判がとても強いことが実証できた。他方、経済制裁や自衛隊の前線配備といった政策内容による違いがあまり見られないというパズリングな結果も得られており、さらなる検討が必要であると議論になった。
②については、地域での核不拡散条約と軍事同盟の関係に関する研究発表がガーツキー・多湖のペアによって行われた。自国が核の傘で守られつつも大国のターゲットにならないために非核地帯条約と同盟を同時に有するという戦略の存在を示し、日本の非核三原則とアメリカとの同盟(核の傘)は一般的現象と考えられることを論じている。
③については、複数のグループが内戦と介入、平和維持に関するペーパーをまとめ、その一部は新しいデータセットの構築の可能性・必要性に関して議論するものであった。東チモールで実施したサーベイ実験に関しても報告が行われ、紛争後社会における女性の人権保護のむずかしさに関する知見が紹介された。
2014年度以降の展開に関しては、神戸でのセミナー・ワークショップの開催を目指すこと、そしてさらに継続して国際ジャーナルに投稿してアクセプトされるような水準の研究を日英の研究者が軸になって実施することで参加者の見解が一致した。すでに日程も固め、2015年に神戸大学六甲台キャンパスでワークショップを行うことを決めた。
以上のように、今後も継続的に本枠組みによる国際共同研究を推進していく所存である。最後に、サントリー文化財団に対し、その暖かいご支援について心よりお礼を申し上げる。
2014年12月