サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > アジアの経済発展の地球環境への影響に関する歴史的研究

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2013年度

アジアの経済発展の地球環境への影響に関する歴史的研究

政策研究大学院大学 教授
杉原 薫

1.研究目的、これまで得られた知見

 本研究は、過去20年ほどのあいだに急速に資源・エネルギーの輸入地域へ転落した成長アジアが、地球環境の持続性にどのような影響を及ぼすかを長期の歴史的視点から解明しようとする。ハリー・オーシマ『モンスーン・アジアの経済発展』に代表されるアジア環境経済論は、いまや地球環境にも大きな影響を与えるものとして再検討されなければならない、というのが問題意識である。

 本来の地球圏、生命圏の論理からすれば、地球環境は熱帯を中心に動いており、北西ヨーロッパなどの周辺地域で生じた技術(産業革命以降の技術)や制度(私的所有権制度)の革新は、環境の大きく違う地域にはしばしばその伝播が困難であった。だが、地球環境の持続性を可能にするには、現在の技術や制度が前提する想定(資源の稀少性や地表を基準とした自然の分割)を相対化し、3次元の地球環境の多様性や不確実性に対応可能なものに発展的に修正していく必要がある。

 東アジア、東南アジア、南アジアからなるモンスーン・アジアは、季節風による降雨、大河川河口のデルタ地帯に集積した肥沃な土地、稲作農耕による人口扶養力によって特徴づけられる「まとまり」を持つという意味で、温帯で発達した技術や制度の限界を克服する可能性を持っている。例えば古い稲作技術の熱帯から温帯への、そして現代における温帯から熱帯への技術の普及の過程から、さまざまな在来知が歴史的な「まとまり」を支えてきたことが確認できる。そこで培われたアジアの資源観、生存観は、現代の課題の解決にも貢献する可能性を持っているのではないか。経済史や環境問題に深い関心を持つ関連研究者との学際的な議論から、このような構図がしだいに現れつつある。


2.進捗状況、今後の予定

 生産の3要素としての土地に代わって、ローカルな資源を「水-食糧-エネルギー」の安定的供給で考えることによって要素賦存の理解を深めようとする、杉原の研究成果は、部分的にはすでにいくつかの刊行物で言及しているが、9月にジュネーウで行われた国際会議で本研究の中核的内容を報告し、来年8月に行われる世界経済史会議でさらに推敲して、英文論文集に発表する予定である。また、日本は、新しい国際イニシアティブであるFuture Earthの世界ハブの一つとして、またアジア・ハブとして、2015年から10年間続く、国際共同研究に参加するが、杉原は、日本学術会議におけるFuture Earth推進委員会の副委員長(人文社会科学を担当)として準備に参加してきた。本研究が世界の公論形成に直接つながる道筋が、ささやかながら、つきはじめている。



2014年12月

サントリー文化財団