成果報告
2013年度
イギリスとアメリカの「特別な関係」から見る国際関係史
- 関東学院大学文学部 教授
- 君塚 直隆
①研究の進捗状況
本研究は「特別な関係(Special Relationship)」で結ばれているとされるイギリスとアメリカの関係を政治・経済・安全保障などの観点から、イングランドによる植民地化の時代から現代までの400年をスパンに、総合的に考察することを目的としている。
2013年度に開かれた5回の研究会では、研究代表者と共同研究者の合計7名に外部研究者3名にも適宜加わっていただき、それぞれの研究分担を決めていくと同時に、史料や文献を渉猟し、最新の研究成果を随時報告しあってきた。これにより、「特別な関係」の実像が長期的な視点から考察することにより、これまで以上に鮮明に浮かび上がってきた。
②研究で得られた知見
英米の「特別な関係」をとらえる上でこれまで強調されてきたのは、両国が同じく英語を使い、ここ200年(19〜20世紀)の国際政治において「覇権国家」と呼ばれ、現代の自由主義的な国際秩序や制度の推進主体となってきた点にあった。
しかし、本研究でこの200年間をはさむ400年のスパンであらためて探究してみると、英米の結束はつねに強固であったわけではなく、むしろ敵対するような時代のほうが長く続いていた点が明らかとなった。特にアメリカ独立革命時(1763〜83年)はもちろんのこと、その後も19世紀末まで両国は、奴隷貿易、カナダ国境、カリブ海・中南米をめぐって対立を深めていた。第一次世界大戦も勃発時にはアメリカは中立を決め込み、戦後も国際政治経済秩序の安定化に力を貸そうとはしなかった。「特別な関係」という言葉自体も第二次世界大戦時のイギリスの首相チャーチルが1946年3月の「鉄のカーテン演説」で初めて用いて以来、大戦中からの同盟関係を強調する意味で使われるようになった。
また戦後においても、帝国や民族、独立後の途上国を自国の経済圏に取り込もうとする経済問題など、英米両国は様々な局面で対立することも多かった。スエズ戦争やヴェトナム戦争をめぐる問題などはその好例であろう。レーガンとサッチャーの時代(1980年代)に一時的に協調姿勢が強まったが、冷戦後には再び複雑な様相を呈している。
このように英米の「特別な関係」をより長い時間軸とより広い空間で再検討することによって、愛憎が半ばするこの「兄弟同士の同盟(チャーチルの言葉)」の実像が明らかになりつつある。
③今後の課題
2013年度の研究成果をふまえ、今後はより多くの史料や文献を読み込み、さらに議論を重ねることによって、『イギリスとアメリカ-「特別な関係」400年の物語-(仮題)』という共著を刊行していく予定である。すでに刊行については勁草書房が引き受けてくださることになっており、学術的に高い水準を維持しながらも、学生や一般の方々にも読みやすいものとし、英米関係の通史に基づいて近現代国際政治を広く深く読み解いていける著作にしていきたい。
2014年12月