成果報告
2013年度
人文・社会科学からみた科学技術イノベーションの本質とその価値観
- 大阪大学名誉教授
- 岩田 一明
(1)研究成果
近年、科学技術イノベーションの波は、人々の価値観や生活スタイル、また生存に関わる根源的な問題を表出化させてきた。将来に向けて、科学技術イノベーションが前提とすべき価値規範や社会としての合意形成のあり方などを含めて、今日的課題を検討することが求められる。超領域的な専門委員(社会心理学、科学技術社会論、科学技術哲学、技術哲学、法哲学、経済学、科学史、システム情報学、人工知能、設計学、生産学)がそれぞれの立場から、科学技術イノベーション、その対象となる社会的問題、および両者の関係性について今日的課題を提示し、俯瞰的な視点から知の交流と融合への議論を深めた。
(2)得られた知見
1. 科学技術イノベーションと社会的問題の関係性については、価値観、文化、サステナビリティといった「イノベーションの対象としての目的設定の問題」、3・11以降の科学技術神話の崩壊、生命に関わる科学技術に対する危惧、早過ぎる技術進歩に対する危惧といった「科学技術進歩に対する社会的なコンフリクトの問題」、合意形成、規範形成、公共的関与、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)といった「科学技術進歩に対する社会からの制御・調和方策の問題」の三点の重要性を指摘することができた。
2. 上記の論点に対して、新興・先進分野の具体的事例として、以下のテーマが深耕された。
① 「人間脳と機械脳」の関係性:具体例として、「ロボットは心を持つか、機械に心を持たせたいか、持たせたいとしたら、何のためにどういう心を持たせたいか? 」
② 「ひとと関わりをもつロボット」の設計:例えば、「ロボットの人間らしさの程度は?」「人間らしさと無意識動作との関係は?」「人間の脳内にある、人認識のモデルは?」
③ 共感のハイパースキャニング: 近年急速に技術進歩している脳のスキャニング技術を使って、「人と人との共感を捉え、理解することができるか?」
3.これらの議論を通じて、今後の新規の超領域的学術研究課題(例)が提案された。
・ 倫理設計の方法論:設計の結果として社会がよくなるか?
・ 科学技術と法:科学技術の発達や倫理的問題への法の関与の基本概念と方策は?
・ 新しいものづくりと人工財の展開:パーソナル・マニュファクチャリング、リバース・イノベーションなど
・ 知の拡張と学術領域間の欠如:瓦礫学、消去学、すきま学など
・ 科学技術イノベーションの社会・文化・環境などへの影響と功罪などを、俯瞰的・継続的に顕在化・体系化・見える化を図るフレームワークとツールの開発:、創造活動支援システムKNC(Knowledge Nebula Crystallizer;堀委員開発)はツールの一つとして有用であり、可能性をもつことが明らかとなった。
(3)今後の課題
今後の俯瞰的・総合的検討には、上記のフレームワークとツールのブラッシュアップが緊要課題であり、その枠組みを活用しつつ、新規の超領域的学術研究課題を展開することが望まれる。
2014年12月