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研究助成

成果報告

若手研究者のためのチャレンジ研究助成

2012年度

戦後中国をめぐる英米関係 冷戦外交と帝国外交の相克、1945年〜1950年

慶應義塾大学大学院法学研究科 助教
林 大輔

まず本研究助成を認めて下さったサントリー文化財団の皆様、並びにお忙しい中審査及び中間報告に対する貴重な御講評を頂いた審査員の先生方に感謝したい。
本研究助成では、「戦後中国をめぐる英米関係、1945年-1950年冷戦外交と帝国外交の相剋」というテーマで、第二次大戦末期から東アジア冷戦が固定化する朝鮮戦争勃発までの間の、中国問題に関する英米の外交政策を外交史研究の領域で実証分析することを試みている。英米は同じ西側自由主義陣営を代表する大国でありながら、国共内戦に対するコミットメント、地政学的関心、経済通商権益の重要性、中国承認問題など、数多くの面で異なる政策を取り続けてきた。このような英米の対中国外交の違いを、従来の冷戦という視角のみならず、帝国-脱植民地化という視角から問い直すことで、より重層的な戦後東アジア国際関係史像を提示することを目標としている。

本研究助成の成果としては、大きく分けて史料収集・研究報告・論文執筆の3点である。
第一に史料収集については、本研究助成により、米国と台湾で史料収集を行うことができた。まず米国では、米国国立公文書館、プリンストン大学マッド史料図書館、スタンフォード大学フーヴァー研究所という、東海岸から西海岸まで相互に遠く離れた三箇所で行った。米国立公文書館では、主に1950年からの中国国連代表権問題をめぐる米国務省外交史料を、プリンストン大学では、共和党上院議員で上院外交問題委員会にて隠然たる影響力を発揮したチャイナ・ロビーの重鎮であるH・アレクサンダー・スミス上院議員関係史料を収集した。そしてスタンフォード大学では、蔣介石日記原本(筆記複写)とスタンレー・ホーンベック米国務省極東部政治問題担当顧問とアルバート・ウェデマイヤー米陸軍中将(蔣介石付参謀長)の関係史料を収集した。中でも最も重要な成果は、スタンフォード大学の蔣介石日記である。同大学フーヴァー研究所には中国関係で極めて重要な個人文書が所蔵されていながらも、これまで史料収集で訪問する機会に恵まれなかった。これまで『事略稿本』や『長編初稿』など編集の手が加えられている刊行史料でしか窺うことが出来なかった超一級史料の記述を、原本で直接確認・入手することが出来たのは最大の収穫であった。
そして台湾での史料収集では、中央研究院近代史研究所檔案館(中研院)と国史館にて史料収集を行うことができた。特に中研院では、本研究テーマで重要な争点となっている米中間・英中間の通商条約交渉、米連邦議会の中国援助法、中共政権承認問題に関する国府側の外交史料などを入手した。また、昨年中研院より刊行された王世杰(外交部長)日記の排印本など貴重な史料集も購入できた。一方国史館では、昨年で刊行を終えた蔣介石総統文物『事略稿本』シリーズ(全81巻)のうち当該時期に関する巻などを入手した。先のスタンフォード大学蔣介石日記と合わせ、これで当該期の蔣介石の基本史料に関してはある程度揃えることが出来た。
第二に研究報告として、慶應東アジア研究所の研究事業である「東アジアとヨーロッパの地域間関係の総合的研究」にて研究報告を行った。これは東アジア=ヨーロッパ関係研究の学術論文集出版プロジェクトであり、2015年中に刊行を目指している。申請者も執筆者の一員として「戦後イギリスの経済外交と対中国関係英中友好通商航海条約交渉を中心に、1945年-1948年」を執筆する予定である。本テーマは、本研究助成においても重要なサブテーマを構成する争点の一つである。

本研究報告では、戦後の英中間での通商条約交渉に関して、同時期に先行して行われた米中間通商条約交渉と照らし合わせた上で、英中条約案の特色とその交渉挫折に至る過程を分析した。本報告に対しては、主に①通商条約という極めてテクニカルで詳細な諸権益事項に関する分析が、当時の英中関係全体の中でどのように位置付けられるのか、②英中通商条約交渉の挫折が、その後の英中関係(特に後の英国の中共政権承認など)にどのような影響をもたらしたのか、という点について数多くの貴重なコメントと助言を頂いた。
第三に論文執筆としては、本研究助成期間で、特に戦後米中間・英中間の通商条約交渉に関する部分を中心に論文執筆を進めることが出来たことは、最大の収穫であった。その他にも、戦後米国議会におけるチャイナ・ロビーと対中国支援問題に関する論文執筆を進めている最中である。これらは近い将来論文の形で刊行することを目指している。

他方で、本研究助成で達成できなかった課題もいくつか残った。
第一に史料収集については、当初の申請時には中国大陸での史料収集を計画しており、北京の中国外交部档案館や南京の国立第二歴史档案館などを訪問する予定であった。だが2013年1月より中国外交部档案館が閉館措置を取るようになったこと、また二档においても史料の提示に消極的な運用が続いていることなどから、助成期間中に中国大陸での史料収集を行うことに適切な成果を期待できないと判断し、今回は見送ることとした。
第二に論文執筆について、最大の問題は、本研究助成期間内に論文刊行に至ることができなかったことである。そのため、今後の課題としては、本研究助成による業績を一日も早く作り上げてゆくことを最優先事項に掲げて取り組んでいる。特に成果として挙げた、戦後通商条約をめぐる米中・英中関係と、戦後米国議会におけるチャイナ・ロビー問題に関する論考については、なるべく早い段階で世に問うてゆきたいと考えている。



2014年5月

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