成果報告
2012年度
芝居街道頓堀の復元的研究と都市再生
- 関西大学文学部教授
- 藪田 貫
《本研究の目的》
本研究の目的は、大阪第一の名所であり、芝居街から食い倒れの街へと都市景観を大きく変貌させた道頓堀に焦点をあて、かつて芝居街であったという道頓堀の町の記憶を「芝居小屋」を中心に調査研究し、最終的には芝居街道頓堀の都市景観をCGで復元することにある。すでに、明治末期から大正初期の街並みを復元したCG「道頓堀五座の風景」を作成し、HPで公開されているが、道頓堀商店会をはじめ閲覧者から、街並みだけではなく芝居小屋の復元への要望が寄せられた。芝居小屋の復元は、関連資料がほとんどないためにこれまで全く行われておらず、困難であることが予想されたが、幸いにも、明治中期から大正初期に劇場・活動写真館・寄席などの建設に関わった大工棟梁の中村儀右衛門資料を入手することで、最盛期の芝居小屋の復元が可能となった。そこで本研究では、芝居街道頓堀の復元的研究の可能性を発信するとともに、第一段階として、総点数455点に及ぶ「大阪の劇場大工 中村儀右衛門資料」(以下、中村儀右衛門資料)の整理と目録化、補修と撮影を主眼とした。
《研究の成果》
本研究の成果は、整理・目録化によって、中村儀右衛門資料の全貌が明らかになったことにある。内容は、①中村儀右衛門の履歴書・日記・覚書、②劇場の設計図面、③建築仕様書など劇場の構造に関するもの、④舞台背景の下書きである大道具帳、⑤その他、に分類されるが、中心をなすのは、芝居小屋関係資料である(②221点・④132点)。なかでも、道頓堀五座と呼ばれた道頓堀の芝居小屋のうち、浪花座・角座・弁天座の三座に関係するものが多くを占めていることがわかった。また大道具帳は、表紙に上演劇場名・上演年月・演目が記載されており、芝居が上演されている小屋の雰囲気をも復元できる貴重な資料であるため、そのすべてについてデジタル撮影を行った。関西大学大阪都市遺産研究センターには、大正12年に新たに道頓堀に開場した大阪松竹座の舞台美術に携わった山田伸吉に関する資料(舞台背景デッサン等)が所蔵されており、中村儀右衛門資料とあわせると、明治中期から昭和戦前期までの芝居街道頓堀の記憶を辿ることが可能となったのである。
中村儀右衛門資料の整理・目録化の成果は、『大阪都市遺産研究』第3号に、資料の概要と劇場関係資料のリストを発表するとともに、その成果にもとづいて、中村儀右衛門資料や山田伸吉資料をテーマとしたフォーラムと両資料の展覧会を地元道頓堀と関西大学で開催した。また、中村儀右衛門資料をもとに角座の復元模型(1/100)の試作品が制作された。
さらに、本研究が機縁となり平成25年1月に、道頓堀商店会と関西大学との間で連携協力協定が結ばれたことも、地域社会と文化に関する本研究テーマの成果と位置付けることができよう。
《今後の課題と展望》
今後の課題としては、中村儀右衛門資料をもとに劇場空間の内と外をCGによって復元することがある。その際には、道頓堀の「大西の芝居」をモデルとした旧金比羅大芝居金丸座などの現存する芝居小屋などと比較することで検証を図り、完成することを目指す。また道頓堀商店会との連携協力協定のもとで、中村儀右衛門の子孫はじめ道頓堀関係者から、芝居街道頓堀に関する証言の収集を進め、「芝居街の記憶」を核としたビジョンを提示し、道頓堀の都市再生に寄与したいと考えている。
2013年9月