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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2012年度

地域社会とアートプロジェクト
― 新たなインターメディアとしての「半農半芸」

東京藝術大学音楽学部教授
熊倉 純子

 本研究会では、伝統・地形的特性・産業・コミュニティなど地域に眠る資源を捉え直すアートプロジェクトだけでなく、農業・産業・工芸品の生産者や建築家、学校や福祉法人、NPOなどのうち現場の最前線で立つ人に焦点をあて、ヒヤリング調査を実施した。

 組織の代表者ではなく、現場担当者にヒヤリングをした点は、今回の調査の一つの重要なポイントであるが、中にはUターンやIターン者もおり、利益追従型ではない、日々の暮らしや仕事、生き方に対しての充足感を求めて今の仕事を選ぶという価値が定着していることが伺えた。物質や情報のみが肥大化し、人間として根源的な部分での満ち足りなさを感じて、3年で大手企業を辞めてしまう人が多いと言われているが、成果として生み出されたものの表層部分の価値にとどまり、時間軸に沿った価値が失われているということが原因と考えられる。一昔前であれば、ヒット商品を生み出せば、その後25年間は満足のいく会社生活を送れると言われて来たが、今ではそのヒット商品自体の寿命も2年というデータがある。必ずしも作り手側のアイデアや努力不足だけでなく、消費者の感覚や社会的な雰囲気が多様化し、多くの作り手の意志を削いでしまう結果となる。このため社会の至る所では消費型の回路が刷り込まれている。
 今回の地域事例調査の報告を聞いて感じたことは、地方であること=資源というプラスの価値観が今後は社会の本流になるという予感がした。使われなくなったものをそのまま捨てるのではなく発想を転換させ、新しい価値を生み出す「里山資本主義」と呼ばれる動きが中国・山陰地方で活発になっている。加工の際に出る木屑をペレットにして代替エネルギーを生み出し自社の電力を賄う製材所、その原理を応用して高知県の山奥にある一つの町が再生を図ろうとしている。他にも、柑橘類を中心とした数十種類の手作りジャム、耕作放棄地を利用して牛を自由に放牧させて作られる毎日味の変わる牛乳など、どれも高価で現地に行かなければ手に入らないものがヒット商品になっている。その上、原材料の仕入れや雇用、環境改善といった副産物を生み出す事で、話題性だけでなく、きちんとお金を土地に落としている事も特筆すべき点だ。
 上述の地域事例は高い利益は生み出せないが、自然の豊かさや物づくりの楽しさ、土地に対する愛着心や誇り、顔の見える隣人との繋がり等、利益追従型にはない副産物が生み出される。アートプロジェクトはそれらを生み出すツールとして理解されがちだが、単なる通過点か建前上の理由としてしか捉えない。アートプロジェクトは関わった個人やコミュニティに対して、気付きや後押しのきっかけとなり変化を促せるのか、絶えずその活動を洞察し、更新していかなければならない。半農半芸では、アーティストが媒介となり、地域を巻き込んだ共同作業をこれから新天地で起こそうとしている。そこには産業と絡み合うものづくりの視点がインストールされおり、他地域にはない本質を捉えたものが、この土地から生まれるに違いない。

2013年9月

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