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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2012年度

グローバル化するイスラム金融の実態と我が国金融業界に適用する上での銀行・証券・保険市場制度(業務分野規制・法制・税制等)上の諸課題に関する研究

早稲田大学ファイナンス研究センター 客員主任研究員
吉田 悦章

1.本研究のこれまでの成果

 イスラム金融は、非イスラム国を含めて着実にグローバル化しながら発展しており、日本もその例外ではない。ただし、我が国のイスラム金融への制度的対応状況をみると、2008年の銀行法施行規則の改正や2012年までの日本版スクークに関する諸法制の整備などの進展がみられるとは言え、例えば他の非イスラム諸国(英国やシンガポール)に比べて包括性や実効性などの観点で劣っているとの評価にならざるを得ない。こうした評価は、次項に述べるような、制度の各国間比較によって得られるものである。

2.制度設計における政策的諸論点:日本と諸外国の比較

 諸外国のイスラム金融制度をみると、大きく分けて①イスラム金融を一つのシステムとして取り扱う国と、②既存の金融システムに包含させる形でイスラム金融を取り込む国に分けることができる。主として、①はイスラム国(中東、マレーシアなど)に、②は非イスラム国(英国、シンガポールなど)にみられるケースと言える。日本は、金融システムの発展度合いや宗教的性格から②の部類に属する国と考えてよいが、①のグループに遅れを取るのみならず、②の諸国に比しても制度的に遅れている部分が多い。
 一つは、銀行による、商品が絡んだイスラム金融取引への対処である。銀行法の業務分野規制により、銀行が商品取引を営むことはできないとの解釈が支配的であるが、シンガポールはこの点を克服した。我が国の対応は「子会社に限って、商品取引を認める」というものであり、本格的な制度対応が整ったとは言い難い。この点は、邦銀がイスラム金融の海外展開を進める上で大きなボトルネックとなり得る部分であるが、リスク分断の観点から銀行に商品取引を認めるのは困難との見方も根強く、今後も引き続き注視すべき課題といえる。
 証券(イスラム債)の部分については、制度自体は整ったので、今後、実際の案件が出るのを待つばかりであるが、例えばリース形式(イジャラ)のイスラム債のみの枠組みでよいのかなど、実務的な需要により制度的な修正を迫られる部分もある可能性がある。
 保険(タカフル)の分野では、我が国において特段の制度的問題は聞かれていない。
 また日本においては、イスラムの教義(シャリア)やその専門家(シャリア学者)による取引審査制度(シャリア・スクリーニング)については、他の非イスラム諸国同様、特段のガバナンスが制度的に規定されている訳ではない。しかしこれは、非イスラム国において特定の宗教で金融取引を規制するのが困難である一方、イスラム国においては法制度の中にイスラム的要素が入ることに問題がないことが多いことに起因しているものと考えることができる。

3.今後の研究課題

 本年マレーシアのイスラム金融法制度が抜本的に変わるなど、世界のイスラム金融制度は進化を続けており、我が国への適用を想定した、諸外国制度の研究は引き続き大きな意義を持つものと考えられる。他方で、「なぜ制度の発展が遅れているのか」という問いを立てた際に必要な論点となる、(1)既存の金融システム・制度の発展状況や、(2)イスラム金融の取引需要としての我が国金融業界の国際競争力などは、我が国のイスラム金融制度の現状と先行きを占う上で極めて重要な点であることから、今後、本研究テーマを掘り下げていく上での将来的な研究課題としたい。


2013年9月

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