サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 日本の電子音響音楽に関するデータベース構築の研究

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2012年度

日本の電子音響音楽に関するデータベース構築の研究

名古屋市立大学大学院芸術工学研究科 教授
水野 みか子

1.研究成果

 本研究は、アジア電子音響音楽ネットワーク研究(EMSAN)の一環として、日本とフランスの研究者合同チームによって遂行された。EMSANは、西欧前衛音楽の影響を受けて始まったアジアの電子音響音楽が、各国文化との融合や変質によって築いてきた歴史を研究対象としている。EMSANが対象とする諸国家のうち、日本は1970年以前に大きな展開を見せた唯一の国家であり、日本の電子音響音楽は60年以上の歴史を持つが、EMSANの大きな研究成果であるアジア電子音響音楽データベースにおいて、日本の作品はわずかにしか登録されていなかった。そのデータベースの項目増加やデータの充実への寄与が、本研究の大きな成果である。
 本研究を始めるまでは、100作品程度であったデータ・エントリー数は、2013年7月末現在で1127作品となった。この増加は、主に日本の作品エントリー数が増えたことによる。音楽著作については2013年7月末現在559エントリーであり、本研究により、わずかではあるが増加した。データベースのシステムはソルボンヌ大学チームによって構築され、ソルボンヌのサイトで公開されている。

2.知見

 本研究では、ヒストリカルな対象に関して、データ入力と並行して資料調査も行っており、検証済みのもののみをデータベースで公開しているので、実際の作品の有無とデータベースでの記載が異なる場合もしばしばある。その顕著な例が丹波明の場合であった。日本人として初めてGRMで電子音響音楽製作に携わった丹波明のフランスでの仕事について、重要な一次資料はパリのGRMアーカイヴで未整理のまま残され、本研究の調査によって、公開資料では検証されない作品も確認された。

3.今後の課題

 研究打ち合わせの段階から重要かつ困難な問題となったのは、音楽作品のタイトルや作曲家によるプログラム・ノートといった固有名詞や著作物の翻訳についてであった。は、非アジア圏を含む音楽学研究者がアジアの電子音響音楽研究にとりくむための基礎資料となることを目的に構築されたので、日本の電子音響音楽に関する諸項目も、欧語訳とローマ字表記(transliteration)が必須であったが、存命中の作曲家にタイトルの翻訳を確認できたのはわずかであった。ヒストリカルな作品に関して、定着訳あるいは初演時のプログラム等で確認できたもの以外は、あらたな翻訳を作成・提示できなかった。今後は、データベース構築作業の第二段階として、『音楽芸術』や同時代の新聞・雑誌等による資料検証と、欧文タイトルの確認、著述物の抄訳等が課題として残されている。


2013年9月

サントリー文化財団