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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2012年度

近代日本画と西洋絵画
― 明治後半から大正期を中心に ―

東京大学大学院総合文化研究科 教授
三浦 篤

 昨年度から引き続き、明治期から昭和初期(特に明治後半から大正期)までの近代日本画を西洋絵画との関係から捉え直すことを目的として、調査研究を続行した。
 昨年、東京芸術大学で「東京美術学校に招来された西洋美術写真調査」を行ったが、この調査が機縁となって、その後資料がデジタル・アーカイヴされたという。歴史的な価値を持つ貴重な複製写真が整理され、調査や展示が容易になったことを喜びたい。
 本年度の活動は研究会から始まった。第1回目は、西洋美術史の側から三浦が、20世紀初めのパリで日本画家たちがどのような絵画作品を見たのか、ルーヴル美術館とリュクサンブール美術館に焦点を当てて検証した。日本人画家たちが好んだルイーニの評価が当時は高かったことは興味深い。また、東京都写真美術館の三井圭司氏は、幕末・明治期における複写技術と画像の頒布について具体例とともに語られ、写真と印刷の根本的な違いを強調された。2回目の研究会では、小泉が近代日本画家の渡航年表の叩き台を提出し、膨大なデータをどのように整理活用していくか議論した。一方、草薙は大正期を中心に活躍した東京画壇の今村紫紅と速水御舟を取り上げ、その作品と西洋絵画との関わりを適確に分析した。
 第3回目の研究会は岡山県笠岡市の竹喬美術館で行われた。竹喬美術館館長の上薗四郎氏が、館が所蔵する小野竹喬、吹田草牧の作品と資料を前にして、京都の国画創作協会系の画家たちの渡航の実態について、詳細に語られた。入江波光展も開催していたので作品調査を行い、予想以上に西洋絵画からの影響を確認できたのは収穫だった。
 4月以降は、研究会メンバー各人が必要と思う調査を行った。三浦は、西洋との関係において偉大な先駆者である円山応挙、画家たちが持ち帰った画集、京都国立近代美術館所蔵の近代日本画を調査し、塩谷と小泉は京都市美術館の近代日本画を資料とともに精査した。後藤は東京国立文化財研究所の近代日本画関係資料を調査した。各々の観点から重要と思われる補足調査を行ったのである。
 最後に総括として、この調査研究を踏まえて展覧会が構成できるかどうか、メンバー全員でシミュレーションを行った。東京画壇の明治期を塩谷、同じく大正・昭和初期を草薙、京都画壇を後藤が担当して、西洋絵画との関係で出品すべき近代日本画を全体で100点程度選び出した。それらの作品と比較対照が可能な西洋絵画を三浦が10点ほど選択し、小泉とサントリー美術館の池田学芸員が作成した近代日本画家の渡航年表を付け加えてみた。まだ問題点は多いものの、現時点における「近代日本画と西洋絵画」展の構成案となり得ていると思う。今後はさらに研究を深めるとともに、展覧会の実現に向けて具体的に動き出したい。

2013年9月

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