成果報告
2012年度
経済的支援が効果的となる国際政治経済システム構築の研究
- 早稲田大学政治経済学術院 教授
- 田中 愛治
本研究の目的は、2011年3月11日の東日本大震災以降の日本社会の状況を、政治経済学的な視点から捉え直し、長期的な視点から、日本の復興に役立つような、人々の期待を実現する政治経済システムの構築にむけて、国際的な視点から政治経済学的に考察することであった。
本研究は、サントリー文化財団より「人文科学、社会科学に関する研究助成」を2011年8月〜2012年7月の期間で助成を受けた。その研究期間の終盤になって、経済学のトラスト・ゲームによるWeb調査の結果が非常に貴重なデータを提供していることに気がつき、2012年春に本研究の継続をサントリー文化財団に願い出た。その結果、サントリー文化財団のご厚意により、ありがたく本研究を2012年8月〜2013年7月の期間で継続することをお認めいただいた。
この1年間の研究では、おもに2点について、実証的な研究の成果を上げることができた。第1には、日本の政治経済システムが震災後の日本の社会において、どのように協力体制を構築することが可能になるかの知見を、トラスト・ゲームを用いたインターネット方式の全国世論調査(Web調査)を通して得た。震災復興に関する日本社会における人々の協力は、他者から支援を受けたことのある人ほど、そのお返しの支援をして、受けた支援への感謝を表そうとする傾向があることが、政治経済学実験を通して明確に示すことができた。
第2には、CASI(Computer Assisted Self-Administered Interview)方式の全国世論調査(全国の有権者から無作為抽出したサンプル対象)に、2種類のスタッグ・ハント・ゲームを組み込んで、全国サンプルを対象に政治経済学実験を実施出来た。この2種類のスタッグ・ハント・ゲームを通して、日本における一般の回答者は、経済学のロジックだけの実験と、年金制度のような具体的な社会的文脈が示された実験とでは、反応が異なることがわかってきた。このことによって、年金改革などの社会保障制度の改革を設計していく際にも、単に経済学的な実験を実施して制度設計をするのでは不十分な点があるという示唆を得た。
上記のトラスト・ゲームとスタッグ・ハント・ゲームの結果を短くまとめた拙論を、『アスティオン』2013年078号に掲載していただいた。また、その内容の一部を日本政治学会研究大会の共通論題にて筆者が行った報告の中に含めさせていただいた(札幌市・北海学園大学、2013年9月15日)。また、前述の東日本大震災の前後に行ったトラスト・ゲームの分析結果は、船木由喜彦とRóbert F. Vesztegと筆者(田中)との共著論文として過去1年間に執筆し、共同研究として議論を重ね、昨年秋にInternational Political Science Review誌に投稿し、2度の修正の結果、この度、”The Impact of the Tohoku Earthquake and Tsunami on Social Capital in Japan:Measuring Trust before and after the Disaster”として掲載されることが決定した。
上記の研究成果をあげるため、研究代表者は2012年12月と2013年5月にHelen Milne教授, Leonardo Molino教授に渡米、渡欧し、コメントを得た。栗山教授からは2013年3月に早稲田大学にてコメントをいただいた。久米郁男教授と直井恵准教授はSkypeとe-mailを通して研究交流を行った。この1年間、早稲田大学からの支援経費が提供されたことによって研究活動の多くが可能になったために、本研究助成の予算を大きく繰り越してしまったが、上記の様に研究成果を得ることができたので、繰り越した予算で研究をさらに進めさせていただきたいと考えている。
2013年9月