成果報告
2012年度
国際安全保障をめぐるアメリカの知的覇権への挑戦
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日本と英国の視座の融合による共同研究
- 神戸大学大学院法学研究科 准教授
- 多湖 淳
本企画の趣旨は、国際安全保障の理論および実証研究において存在するアメリカの研究機関・研究者の知的覇権に少しでも対抗できる、非北米圏の研究を蓄積するという目的で、日本と英国(または欧州)の研究者でグループを作り、共同研究を推進することにあった(なお、以上で非北米圏としているが、知的覇権への挑戦をするためには、北米圏の流儀でその中心で活躍する研究者との対話や交流も不可欠であり、その意味で、アメリカで活動する研究者も本企画に参画している)。
具体的には、(1)アメリカにおいて実証されてきた、観衆効果(audience cost)の議論について、日本や英国での検証例を追加し、理論の部分的、しかし重要な修正を試みた。また、(2)同盟の運営管理に関連して、アメリカ国際政治学は民主主義国と非民主主義国の違いのみに着目する研究がほとんどであるが、日英の視座からすれば、民主主義国内での違いに着目する重要性が見出せ、たとえば民主主義国はいつ同盟コミットメントを破るのか、といった論点に取り組む研究を進めた。加えて、軍事基地を出す側(=アメリカ)、受け入れる側(=日本やイギリス)の立場の違いで「基地をめぐる政治学」がアメリカではなされにくいが、これに解答を与えるためのデータセットの整備と分析を本プロジェクトでは試みてきた。(3)同様に、内戦研究に人間の安全保障というアイディアを当てはめる研究者がアメリカでは乏しく、本プロジェクトの第三チームは東チモールでの現地調査のために研究協力を推進してきた。
2013年8月5日の時点で、以上の三チームのうち、(1)と(2)において具体的成果が刊行論文として公表される目途がついた。一つは、(1)について、多湖淳、池田真季のグループによる、日本の世論がアメリカの武力行使を支持する条件を分析した研究である。国連によるお墨付きを得た場合、得ない場合について、顕著な違いを見出し、北米の研究が見落としてきた、拒否権行使による決議不採択の場合について、独自の知見を得た(拒否権行使で否決されても、武力行使の正当性は下がらず、支持は維持される)。二つ目は、(2)について、トバイアス・ボーメルト、ウルリッヒ・ピルスター、多湖淳による同盟運営管理に関する論文である。同盟のうち、有志連合という特殊形態について、従来あまりアメリカでは関心の寄せられてこなかった参加国の離脱プロセスに着目した論考である。政権の交代が有志連合へのコミットメント(約束)を弱くし、離脱へつながることを実証している。(1)はBritish Journal of Political Science誌から、(2)はInternational Studies Perspectives誌から査読審査通過の通知を得た。
今後も、継続的に本枠組みによる国際共同研究を推進していく所存である。最後に、サントリー文化財団に対し、その暖かいご支援について心よりお礼を申し上げます。
2013年9月