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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2012年度

文化・情報の越境と中国政治・日中関係:政治学・歴史学・社会学によるアプローチ

金沢大学人間社会学域 准教授
倉田 徹

1.研究の趣旨
 本研究においては、「文化産業や、メディア・ネットを通じた国際的な情報伝達が、中国政治や日中関係をどう変えるか」との共通の問題意識から派生する、1.中国のなかで自由を維持する香港の自由や民主が中国を変えるか、2.中国近代史において顕著に見られた、外からの文化・情報・価値観の流入が中国に大きな影響を与えた歴史は繰り返されるか、3.ソフト・パワーの一環として外交に利用されるようになった現在、文化と政治はどのような関係を築くのかという問題に、政治学・歴史学・社会学を専門とする日本・台湾・香港の若手研究者が、それぞれの切り口からアプローチを試みた。
 この研究の背景には、中国がグローバル化の中で経済成長を実現しているにも関わらず、一党独裁の政治体制を死守しようとしていることと、日中関係が互いの経済関係の緊密化の一方で、深刻な感情的対立に陥っていることという、中国にまつわる状況が存在している。これらの状況が今後どう展開して行くかは、日本や東アジアの将来にとって極めて重要な問題であり、また、そのいずれにおいても、日本や西側諸国から中国への文化や情報の流入が、大きな影響を及ぼす可能性があると考えられる。

2.助成期間中の研究活動
 期間中に行われた特筆すべき活動は、2012年12月の香港中文大学でのワークショップの開催と、2013年6月のアジア政経学会全国大会での分科会開催である。
 香港でのワークショップでは、研究チームから6名が口頭で、1名が書面で研究報告を行い、ゲストとして参加した小熊英二慶大教授が総括コメントを行った。文化・情報の越境の様々な現象が報告され、研究の問題意識が共有された。
 アジア政経学会全国大会での分科会には、研究チームから3名が報告を行い、1名がコメンテーターとして参加した。それぞれが日本のナショナリズム、清末期の中国の文物の越境、清末期の教育制度の構築に対する日本の影響を考察しており、研究の進捗がうかがわれた。
 この他、2013年7月に名古屋市で開催され、研究メンバーのうち2名が参加した「中国化するアジア文化」座談会にも本研究助成の資金が活用された。

3.今後の研究計画
 現在、メンバー各自の個別研究が進められており、今後この研究成果をまとめた論文集を、まずは香港において中国語で出版することを目指している。その実現後は日本語・英語でも研究成果を出版して行きたいと考えている。

2013年9月

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