成果報告
2012年度
旧東欧地域における「演歌型」大衆音楽の生成と展開
- 大阪大学大学院文学研究科 教授
- 伊東 信宏
サントリー文化財団の研究助成による研究課題「旧東欧地域における「演歌型」大衆音楽の生成と展開」2012年度の研究成果についてご報告いたします。
本研究課題は、1989年の体制転換以降、旧東欧諸国に起こった文化現象のうち、特に「演歌型」大衆音楽ともいうべき新ジャンルの登場に焦点をあててその比較研究を行おうとするものです。「演歌型」大衆音楽とは、1)欧米のポップスの基本語彙であるベース&ドラムスを基礎としながら、2)発声、歌い回し、楽器法などの点で、民俗音楽の要素を暗示しつつ、3)テレビやカセットテープといった媒体により大衆に浸透したジャンルで、ブルガリアの「チャルガ」、ルーマニアの「マネレ」、旧ユーゴスラヴィアの「ターボフォーク」などがその代表といえます。
前年度、すでに貴財団の助成を得て、研究会を組織し、予備的調査および、セルビアやチェコなどにおける調査が行われました。2012年度においては、さらにトルコ、ルーマニア、ブルガリアにおいて、2〜4週間程度の調査を行いました。これらの調査については、2月に開催した研究会(東京大学)において、報告され、他地域との比較などの観点から議論しました。ここで興味深かったのは、トルコの状況で、ドイツに移民したトルコ人たちの社会における大衆音楽のあり方も、本研究会で見てきた東欧地域の状況と比較検討できる、という点です。
またこれらの成果のエッセンスは、民族藝術学会の例会において、我々の研究会のメンバーが問題提起しました。
これらの研究は、昨年獲得した科学研究費補助金(基盤B)科研「旧東欧地域における『演歌型』大衆音楽の比較研究」(2012-15年度、2012年度は270万円)との関連において、進められています。貴財団からの助成が終了した後も、この研究会活動を続ける予定で、以下のような企画を準備中です。
◆ セルビアにおける国際会議における報告を行う。
◆ 第5回東欧演歌研究会(2013年10月19日)以下、各年度に2〜3回の研究会を継続する。
◆ 2014年2月に予定されているロンドン大/阪大の協同シンポジウム(於ロンドン大)において関連する報告を行う。
◆ 2014年度に東欧の大衆音楽を軸とする国際フォーラムを大阪で開催する。
◆ 上記の全ての成果を共著書としてまとめ、2015年に刊行する。
2013年9月