成果報告
2012年度
日本の言語・文化の諸相を通しての「見立て」の手法の研究と、そのアジア文化圏における位置づけへの試み
- 昭和女子大学 特任教授
- 池上 嘉彦
本研究のテーマは「日本の言語・文化の諸相を通しての<見立て>の手法の研究と、そのアジア文化圏における位置づけへの試み」である。本研究は、日本文化の中心的な手法をなす<見立て>の様々な諸相を取り上げ、そこに共通する発想を分析するとともに、<見立て>の発想の背後に、<事態把握>という言語話者の認知的行為があることを明らかにして、日本語と日本文化における<見立て>を統一的に捉え、検証することを目的とする。
<見立て>の研究は、日本の文芸や視覚文化―例えば茶道・華道・作庭・建築。絵画など―の分野において個別に進められており、それぞれ膨大な研究成果があげられている。しかし、日本人―日本語話者―という観点から、これらの文化全体に共通する<見立て>の志向性を捉える試みはなされておらず、日本語を<見立て>の観点から分析することも試みられてこなかった。また、日本語や日本文化は中国や韓国の言語・文化の多大なる影響を受け、享受してきたが、<見立て>という概念の発展に、これらの言語文化がいかに関与してきたか、あるいは日本独自で発展したのかという点も研究されてこなかった。
以上をふまえ、本研究は認知言語学の<事態把握>の概念を援用し、日本語話者という観点から、日本語話者がどのように<見立て>を行い、それを個々の文化や言語の体系・構造に反映しているかを研究するとともに、<事態把握>の点で異なる中国語話者、類似する韓国語話者・トルコ語話者を視野に入れて、文化記号論的研究を目指すものである。
1.研究成果
本研究では以下が明らかになってきた。①.日本の文芸や様々な視覚文化および日本語の<見立て>は<主観的把握>という共通した概念に基づいている。②.中国、韓国の言語文化では<見立て>が必ずしも主要概念ではなく、<見立て>は日本独自で発展した可能性がある。③.<事態把握>が日本語話者と近いトルコ語では、日本語の<見立て>の志向性が見られる。④.<見立て>の観点は日本語研究に有効な視点を提供する。
2.進捗状況
上記のうち①④は論文等の形でメンバーが個々に進めており、発表の段階にある。②③は、海外での調査・分析が十分実施できなかった。今後、実施および検証の必要がある。
3.研究で得られた知見
<見立て>は日本文化と日本語を結ぶ概念であり、文化記号論的なキーワードである。同時に、<見立て>志向性はメタファー志向性と並ぶ認知類型論的な試験紙となり得る。
4.今後の課題
今後の課題は上記①、④を深めていきながら、②、③の海外の<事態把握>および<見立て>との相関性を、比喩(メタファー)との相違も視野に入れつつ調査・分析することである。本研究に深く関わる発表としては、既に以下のような活動が予定されている。
1.9月22日:ポスター発表:池上嘉彦・守屋三千代・百留康晴・百留恵美子・山口富蔵「<見立て> 送り手と受け手の間での意味創出の営み―文化記号論の試み―」日本認知言語学会全国大会。京都外国語大学
2.10月20日:ワークショップ:守屋三千代・百留康晴・百留恵美子「日本語の視点―日本語話者にとって「見る」とは何か―」「視点論国際シンポジウム」北京大学
3.12月7日:講演:守屋三千代「(仮題)日本の<見立て>はいかに成立・成熟したか」東アジア日本研究フォーラム(釜山)
4.12月26日:講演:池上嘉彦・山口富蔵・守屋三千代「(仮題)日本語・日本文化における<見立て>」北京日本学研究センター講演会
2013年9月