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研究助成

成果報告

2011年度

建築工事映像フィルムにみる日本の近代都市文化に関する研究
― 都市映像アーカイブの構築に向けて

吉永建築デザインスタジオ一級建築士事務所
吉永 健一

■研究の目的
 本研究は建築物や土木構築物の建設行為を記録した映像フィルムの存在に着目し、そこに日本の都市近代化の文化的諸相を見出そうとするものである。日本の近代化を牽引した建設産業の現場は、多種多様な職種や技術が投入された時代の縮図であり、その記録からは建設技術のみならず、当時の都市風景や職人達の服装、節目の神事や祝い事、また規律や安全の考え方など、実に様々な人間活動を見出すことができる。
 本研究では、1930年代から1970年代までの映像を収集して比較分析し、諸事象の変遷と特徴を明らかにする。その成果はこれらの映像資料が日本の近代を考究する上で第一級の歴史資料であることを示し、その価値を広く社会に訴えるものとなるだろう。そして長期的には、近代都市を記録した映像を集約した、映像アーカイブの構築を目指す。

 

■フィルムの所在と保管状況
 調査の結果、建設会社が数多くの映像を保管していることがわかった。大手建設会社では各社50本から100本以上、大成建設にいたっては500本を超える映像記録を有している。フィルムの保管状態が気になるところであるが、大手の建設会社ではデジタル化に着手していることがわかった。
 また、建築主が自社物件などの記録を保管している場合もある。特に都市再生機構(UR)や西日本高速道路(株)(NEXCO)といった、高度経済成長期の日本の近代化推し進めた大組織には、数多くの映像記録が保管されていることがわかった。しかしフィルムのデジタル化は進んでいない。 フィルムの劣化が既に進み、再生困難になっているフィルムもあり、適切な保管が急がれる。

 

■映像の内容
 建設工事映像は一般に「産業映画」に分類される。20〜30分にまとめられたものが多く、戦前の古いフィルムを除けば、確認できた映像には全てナレーションやBGMが付いており、わかりやすく編集されていた。そこには建設技術はもちろん、当時の都市風景や祭事、竣工後の建物の利用状況までを記録しているものも少なくなく、様々な観点において貴重な歴史資料であることがわかった。
 映像のテーマや演出にも時代ごとの特徴がみえる。最初の頃は建設技術を中心に、地鎮祭から建物が出来上がるまでを順番に紹介していく映像が多いが、1970年頃になると、特定の技術紹介に特化していく傾向があり、映像の構成も必ずしも時系列に従わなくなる。一方で建築家に焦点を当てた作品も多くなり、現場の建設技術よりはむしろ、建築家のコンセプトや設計者の計画がどのように実現したかに重点が置かれるようになる。

 

■今後の課題
 今後も一般公開の上映会を開催するとともに更なる映像の発掘を進めていく。また、建設工事映像の貸し出し、上映などに関わる権利関係について、映像の現場に関わる方々を交えて勉強会を行い将来的な公的アーカイブの構築につなげていく。

 

2012年9月

サントリー文化財団