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研究助成

成果報告

2011年度

近代日本画と西洋絵画
― 明治後半から大正期を中心に

東京大学大学院総合文化研究科教授
三浦 篤

 本研究グループの目的は、明治期から昭和初期(特に明治後半から大正期)までの近代日本画を西洋絵画との関係から捉え直すことにある。西洋絵画の受容が重要な契機となった近代日本画家たちについて、日本と西洋の両分野の研究者が協力して調査し、全体として実り多い研究活動となった。

 資料調査に関する大きな成果として、「東京美術学校に招来された西洋美術写真調査」がある。これらの写真は、フェノロサ、岡倉覚三らが明治20年頃、欧米視察中に購入したもので、3000枚以上に及ぶ未整理状態の美術作品複製写真の現状を今回確認した。明治期後半の東京美術学校で西洋絵画を学習する際に、重要な役割を果たした複製写真群なので、本格的な調査とデジタル・アーカイヴ化が望まれる。画家たちの様式や個別作品との関連性も今後明らかになることが期待される。

 もうひとつの調査旅行は京都画壇に関して行われた。海の見える杜美術館(広島)において竹内栖鳳と土田麦僲の渡欧絵葉書、次いで京都市立美術館において竹内栖鳳の作品、スケッチブック、渡欧関係資料を調査した。近代の日本画家たちが渡欧したときに収集した絵葉書や画集は貴重な情報源であり、既に公刊された資料もあるが、本格的な分析はこれからの課題である。実物に常に接することができない日本の画家たちにとって、複製画像の持っていた意味は予想以上に大きいと推測される。

 調査と並行して行われた研究発表も充実した内容であった。東京で行われた発表会では、塩谷純氏が明治期の日本画の女性表現に西洋絵画(特にラァラエロの聖母子像)が与えた影響を指摘した。古田亮氏は、近代日本画と西洋絵画との関係を探求する観点を総括され、とりわけ大正期の日本画家たちにおける西洋絵画との関わりを多様な側面から検討された。東京画壇の研究に関して今後の指針となるような発表会であった。

 京都で行われた研究会では、後藤結美子氏が国画創作協会の画家たちの渡欧と西洋美術との関係を主題にして、包括的で有用な見取り図を提出された。廣田孝氏は竹内栖鳳と19世紀英国絵画との関連性について発表され、さまざまな議論を生んだ。こちらは今後の京都画壇の研究に関しての出発点となる発表会であった。

 本研究は対象が広範囲なため、2年間の研究期間を予定している。その意味で、2011年度の調査研究は新発見も含んだ、次年度の土台となるべき成果を挙げることができた。今後は引き続き研究発表会と調査旅行を重ねる中で問題を展開し、深めるつもりであるが、西洋美術研究者の側からのアプローチも行いたい。既に、近代日本画家渡欧時におけるパリの美術館の実態については調査を開始しているが、渡欧時の画家たちの西洋美術体験をより正確に解明することは必要不可欠な作業となるであろう。

 

2012年9月

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