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研究助成

成果報告

2011年度

印刷メディアからみた近代社会
― 関西の都市風俗を中心に

京都工芸繊維大学美術工芸資料館館長
並木 誠士

 二期目にあたる本年も、マッチラベルのデータベース化をすすめた。数量が膨大であり、データベースとして設定した項目のなかでも、製作年代、製作場所のように特定することが難しい項目があるので、有効なデータベース作成には試行錯誤の繰り返しが必要である。また、あらたな寄贈を受け入れたために、データの母数は増えたが、作業の終着点がなかなか見えないということも実情である。
 しかし、二期にわたる作業で、マッチラベルが、都市風俗、とくに都市史の研究資料として有効なものであることが明らかになった。その最大のポイントは、マッチラベルにおける「場所」の表記である。マッチラベルでは、具体的な住所表記が使用されるよりも、ランドマークとしての建物や橋などの施設を基準に場所を特定する表記がはるかに多く、それにより、ピンポイントでの時期特定は難しいものの、都市におけるランドマークの存在が明らかになってくる。
 一方、近代都市研究の方向から、マッチラベルのこれまで注目されていなかった使用法も明らかになった。それは、都市における近代を象徴する事象のひとつである博覧会の広報に、ポスターだけでなくマッチラベルが利用されたことである。具体的には、昭和3年に京都で開催された大礼記念大京都博覧会では、ポスターの懸賞募集をおこない、1等から3等までの作品が実際にポスターとして作成されたことがわかっているが、博覧会資料の検討により、応募ポスターのうち、2等入賞の図案をマッチにして、京都駅前その他で配布したことが判明した。この図柄は、舞楽の舞を図案的にあつかったものである。2等の図柄がとくにマッチラベルに選ばれた理由は明記されていないが、1等、3等の作品が比較的細かく色数の多い図柄であるのにたいして、2等の図柄がシンプルで小さなマッチにはふさわしかったということがデザイン面、印刷技術面から想定できる。なお、その後、博覧会関係の資料を同じ観点から調べた結果、昭和10年に開催された台湾博覧会に際しても、マッチの作成と配布がおこなわれていたことがわかった。とくに、台湾博覧会の場合は、片面には台湾の名勝の風景、他面には、いまで言う協賛企業の広告を載せるという形式であり、マッチが広告として機能していた様相を知ることができる。
 以上のように、本研究課題は基礎的データの蓄積という側面が強いが、近代都市研究に新しい視座を提供することができると考えている。

2012年9月

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