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研究助成

成果報告

2011年度

経済的支援が効果的となる国際政治経済システム構築の研究

早稲田大学政治経済学術院教授
田中 愛治

 本研究の目的は、2011年3月11日の東日本大震災以降の日本社会の状況を、政治経済学的な視点から捉え直し、長期的な視点から、日本の復興に役立つような、人々の期待を実現する政治経済システムの構築にむけて、国際的な視点から政治経済学的に考察することであった。
 従来、政治学は、個人や集団の行動と社会現象に関する垂直的な権力関係を重視し、経済学は、市場に代表される価値の水平的な配分関係を重視してきた。しかし、本研究では、政治学も経済学も双方共に、個人や集団の期待と政治経済制度の間の相互作用として捉えることを通して、政治学と経済学の研究アプローチを融合し、権力関係と配分関係の双方を一貫した基準で分析することが可能と考えて研究を進めてきた。
 そのような試みの過程で、日本の政治経済システムが震災後の復興に向けて、どのような制度を必要としているのかを検討してきた。その研究の中で成果が生まれてきたのが、スタッグ・ハント・ゲームの理論を用いた実験により、日本人が社会保障(年金)制度の選択にどのような傾向を見せるかを分析した。その暫定的な結果では、一般的な生活の中での計算をする事が出来る人で、あまり用心深くなく、挑戦的で、辛抱強い人が、年金制度のような全員で協力すれば成り立つような制度(スタッグ・ハント=鹿狩り)を選ぶ傾向が強かった。そうでない人は、確実に取れるが収入は極端に少なくなりそうな制度(ヘア・ハント=兎狩り)を選ぶ傾向があることが示唆された。さらに国際的な視野から、東日本大震災の直後の被災者の我慢強さと秩序を重んじる協力の精神を、2012年1月14日の国際研究会においてゲストとしてお招きしたSimon Gachter 教授(the University of Nottingham)は、国際的な文化の相違から説明できる興味深い枠組みを提示した。
4月14-15日の国際研究会、16日の国際シンポジウム「International Symposium on Global Political Economy」にて、国際的な分析視角からの経済復興・経済救済の議論を深めた。
 上記のシンポジウムで田中が討論者としてのコメントの中で一部報告した東日本大震災の前後における(協力ゲームの基礎となる)日本人の信頼に対する意識の変化を、Web型のCASI調査によって探る事が出来た。震災直後に、既に日本人の信頼された場合に、それに答えようとする傾向が(統計的に有意なレベルで)高くなる知見を、データ分析から得られ、論文が完成した。現在、国際的な雑誌に投稿準備中である。

2012年9月

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