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研究助成

成果報告

2011年度

画像資料でたどるマルコ・ポーロの風景
― モンゴル時代のアジアとヨーロッパ

京都大学大学院文学研究科教授
杉山 正明

 本研究は、世界が大きく旋回した13世紀から15世紀初頭にいたる「モンゴル時代」の東西交流について、マルコ・ポーロというきわめて有名だが、存在と輪郭ともに明確でない人物を鍵・象徴・共通項として、人類史上最初の“世界化への扉”を、出来る限り具体的なビジュアル・データを用いて描くことを目的とする。すでに、東方世界については杉山や宮を中心に、漢文史料やペルシア語・アラビア語文献などを駆使してかなりな成果と研究のステップ・アップを果たしてきた。率直にいって、この20年ほどで日本と世界における当該時代の東方についての理解は、大きく変容したといっても過言ではないだろう。

 その一方、従来ややもすれば西方世界について、日本の研究者の視線による13-15世紀史の理解は決して十分とはいえず、まして東西世界を見渡したかたちでの真の学術的アプローチは、きわめて乏しかったといわざるをえない。そこで、これまで手薄であった西方世界のうち、やはり重要度の高い地中海沿岸域、とりわけ鍵となるイタリア・イベリアに的を絞り、外交文書・旅行記・地図・挿絵入り書籍などを切り口としつつ、現地の各研究機関に蔵されるヨーロッパ諸言語・ペルシア語・アラビア語・テュルク語、さらに稀には漢語も含めて、各言語でしるされた文書・典籍・図像などの一次資料の発掘・収集をはかってきた。

 代表者・協力者は、それぞれ実地調査・原典資料の厳密な読解と関連データの博捜を基本スタイルとしており、いわゆる東洋学・西洋史の研究者が連携・協力する方式を展開している。具体的な研究成果としては、共同研究者のひとりである高田英樹は、長年のイタリア滞在も生かしつつ、今年四冊の巨著を博士論文として京都大学に提出し、それらは順次公刊される予定である。また、杉山・宮・小野は、やはり今年2012年3月に『ユーラシアの東西を眺める―歴史学と環境学の間』を公刊、美麗な画像データや地図・古文書などの写真も数多く収載した。さらに、代表者の杉山は、年内に『東方見聞録―ヨーロッパの想像力』(岩波書店)と『マルコ・ポーロの実像』(講談社)を出版する予定である。以上には、それぞれの本研究の成果が大いに盛り込まれることになる。それらの刊行物・書物によって、日本における当該分野の学術・知見は、かなり変わりゆくことになるだろうと考える。

 研究全体としては着実に進展しており、さらに今年度についてもサントリー文化財団の研究助成を賜わり、研究参加者一同、衷心より深謝の微意を奉呈する次第である。今後についは、これまでのアプローチを継続し、進展をはかるほか、国内外での講演活動も積極的に行いたい。なおすでに、2011年に北京大学歴史学部にて「馬可波羅Marco Polo諸写本」の講演を行っている。また、本年11月の下旬に、京都大学文学研究科と北京大学歴史学部との協賛で杭州にて公開シンポジウムを3日間にわたり実施する予定だが、そのさいメイン・スピーカーの杉山は、本研究成果を中心に講演をおこない、サントリー文化財団の研究助成についても言及したい。

 

2012年9月

サントリー文化財団