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研究助成

成果報告

2011年度

ヨーロッパにおける日韓ポピュラーカルチャー受容の比較研究

ヴィータウタス・マグヌス大学アジア研究センター研究員
高馬 京子

 2010-2011年度の共同研究の研究結果に基づき、引き続きご支援頂いた2011-2012年度は国際的かつ学際的観点から共同研究「ヨーロッパにおける日韓ポピュラーカルチャー受容の比較研究」を行った。日韓のポピュラーカルチャーが海外で受容され始め久しい中、本研究では、これらの日韓ポピュラーカルチャーの欧州における受容比較に焦点をあて、新しい研究者の協力も得ながら、ポピュラーカルチャー研究の理論、また、比較の観点からみた事例研究、(日韓ポピュラーカルチャー受容の一国(フランス、ドイツなど)における比較、同じポピュラーカルチャーアイテム(ファッションなど)の異なる国における受容比較など)、日本の文化外交政策史などに焦点をあてた。主な研究成果は以下のとおりである。
 リンハルト・セップ氏は、「ナチドイツにおける日本の大衆イメージ(1933―1945)」という論考において、当時のナチドイツにおける日本に関するベストセラーの本の調査を通し、いかに日本のサムライイメージがナチドイツにおいて最も影響力のあるイメージであったかを明らかにした。サングム・リー氏は、「文化多元主義時代におけるハイカルチャーとポピュラーカルチャー」という論考において、ヴィジュアルおよび言語表現の伝統的ヒエラルキー、文化多元主義における「高次元」と「大衆」、文化産業、多文化社会における文化の商業化などに焦点をあて、人間の五感におけるヴィジュアルと言語表現に基づいた動態的なポピュラーカルチャーと、ハイカルチャーの基準について議論した。ヒュン・ジョンイン氏は「フランスにおける韓流フアン-惹かれるのは珍しさゆえか親しみやすさゆえか」という論文の中で、いかにフランスの若者がKpopを見つけ、フアンになっていくのかをフランス国立東洋言語文化大学の学生へのアンケートを通して明らかにすることを試み、その結果、日本文化フアンから韓国文化フアンへと移行した若者が多いことを発見している。高馬 京子は「フランス、韓国、台湾における日本語学習者へのアンケートの比較分析とフランス人カワイイファッション着用者を通してみるカワイイファッションの異文化変容」という論考において、未熟性に焦点があてられるフランスのカワイイの異文化受容の特徴を、フランス、韓国、台湾の日本語学習者のカワイイに対する認識比較、また、フランスのカワイイファッション着用者などインタビューを通して明らかにすることを試みた。小野原教子氏は、「コスチュームとトラウマ・5つの展覧会を通してみるイギリスにおける日本のファッション受容」という論文において、イギリスで日本のファッションを通して、伝統、トラウマ、テクノロジー、トレンドという4つのキー概念を元に、日本のファッションを通してどのような日本のイメージが形成されてきたか、また、西洋のファッションにどのような影響を与えてきたかを多角的に考察している。オウレリユス・ジーカス氏は、「世界規模の国家イメージ戦略の発展における日本の広報外交と国家ブランディング」において、冷戦前後の日本の広報外交と国家ブランディングの実践について、西洋と比較しつつ、議論し、現在ポピュラーカルチャーが用られる日本の広報外交の背景を歴史的観点から明らかにしている。
 2年にわたってご支援頂いた本研究プロジェクトでは、欧州、日本、韓国の研究者11名によって研究がすすめられた。韓国ポピュラーカルチャーはアジアに比べ欧州の幾つかの国ではまだ受容は十分になされていないという指摘もあった(チョイ(2010年度)、リー(2010年度))が、日本のポピュラーカルチャー人気が特に根強いフランスでは、ヒュン氏の指摘をみるように、日本文化のファンが韓国文化ファンに移行し人気を得るという、両文化が相互影響をしながら愛好されている傾向もみられた。このような背景を元に、両文化の差異が認識されない傾向もみられ、今後両文化の独自性をお互いに提示していく必要もあると考えられる。また、リンハート(2011年度)と北村(2010年度)両氏の議論にみるように、日本ポピュラーカルチャーブームは今に始まったわけではなく、それらはナチドイツの大衆へのプロパガンダ装置として、また、宝塚の文化外交装置的役割など、インターネット利用で推進される現代の「ボトムアップ型」の日韓ポピュラーカルチャー普及とは異なり、戦前から「トップダウン」形式で日本のポピュラーカルチャーが欧州に普及されていたことも指摘しておきたい点である。また、そのあたりの日本の文化外交に関してはジーカスの論考にまとめられている。さらには、日本のポピュラーカルチャーを通して、日本に関してステレオタイプ的イメージ(カワイイという未熟性、幼稚(高馬2010、2011年度)、伝統、トラウマ、テクノロジー、トレンド(小野原2011年度))が強化、形成されていたことも明らかになった。今後の課題として、リー氏が述べるように(2011年度)、歴史的変化の文脈の中で文化の多様性を知りつつ、また高度情報化時代、社会で、急速に常に変化し、かつトランスナショナルな性質を有するポピュラーカルチャーについて議論を続ける必要性をここに挙げておきたい。
 本年度の研究会に関しては、フランス国立東洋言語文化大学(イナルコ)の日本研究センターのジャン=ミシェル・ビュテル准教授、研究員のアドリアン・カルボネ氏に、運営面、また議論のコメンテーターと多大なご助力を頂いた。ここにお礼申し上げたい。そして、本研究を助成して下さったサントリー文化財団に心より感謝の意を記したい。

2012年9月

サントリー文化財団