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研究助成

成果報告

2011年度

総合商社の歴史分析
― グローバル・ネットワーク、リスク・マネジメント、制度

東京大学大学院経済学研究科教授
岡崎 哲二

 今日の日本企業にとってグローバル化への対応は不可避の課題であり、企業はそれにともなって直面する問題への適応能力を問われている。本研究は、グローバル化に伴って企業が直面する問題とそれへの適応過程について、日本の総合商社を対象として歴史的な検証を行った。歴史研究の大きなメリットの一つとして、今日の企業を対象とする場合には入手困難な企業の内部資料(一次資料)を用いて分析を行うことができる点がある。本プロジェクトでは、三菱経済研究所附属三菱史料館所蔵の戦前期の三菱商事に関する一次資料群1 (「綜合決算表」、「取締役会議事録」「事務引継書」など)、アメリカ合衆国国立公文書館が所蔵するRG131資料群 、オーストラリア国立公文書館シドニー分館に所蔵されているJapanese Company Records2 等、従来の研究でほとんど利用されることがなかった一次資料を用いて実証分析を行った。

 総合商社については、それが諸外国に類を見ない日本独自の企業形態であり、また広範な企業間取引を通じて日本の経済発展の過程に重要な役割を果たしてきたことから、1970年代以降、多くの研究が積み重ねられてきた。これら研究は、日本で最初に総合商社形態をとってグローバルな活動を展開した三井物産を主な対象としており、その結果、三井物産の特徴がそのまま戦前期日本の総合商社の特徴であると見なされる傾向が生じている。これに対して本プロジェクトでは個別商社史、個別商品の分析を越えた“総合商社”それ自体の機能、組織の分析を行うため、三井物産と並んで戦前期にグローバルな活動を展開した三菱商事に焦点を当てた。

 その際、本研究では、対象を拡大しつつ研究に一貫性を与えるため、分析枠組みとして組織の経済理論の考え方を採用した。すなわち、組織は、市場と並んで、経済の基本的な機能であるコーディネーションと動機づけを行う仕組みであるという見方に立ち、商社をそのような意味での組織ととらえた。そして、戦前期の商社がどのようなコーディネーション問題に直面し、それを解決するためにどのように組織を設計し、さらにその組織を動かすためにどのような動機づけのシステムを導入したのかに焦点を当てて研究を行った。  戦前期日本の商社は、新規市場の開拓のため、あるいは海外から資源・商品・技術などの調達のため、積極的に海外活動を展開した。こうした活動を適切に行い、高いパフォーマンスを達成するためには、さまざまなコーディネーションと動機づけの問題を解決する必要があった。また、世界各地に分散設置された多数のブランチからなるネットワークを有効に機能させるためには、権限配分と人的配置を適切に設計するとともに適切な動機づけを行うことが必要とされたのである。  なお、助成の成果を受けた研究成果は、2012年度経営史学会全国大会のパネル「戦前期総合商社の組織と経営行動―三菱商事を中心に― Organization and Strategy of Mitsubishi Trading Co. : Toward a Comparative Historical Analysis of General Trading Companies」として発表される予定である。

 
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1 1941 年7 月、米国が在米日本資産を凍結した際、日本企業の在米支店ならびに子会社関連の書類が米国司法省に押収された。その一部は、日本の継戦能力や戦略爆撃対象の分析に用いられたが、他の部分は戦後、米国国立公文書館に移管され、その資料区分RG131 に編入された。RG131 中の日本企業関係資料は、主として商社支店と銀行支店のものからなり、その大半は一次資料で、ほとんどが日本国内には残っていないものである(商社関係3524 箱、銀行関係262 箱。)三菱商事については、888 箱が所蔵されている。

2 オーストラリア国立公文書館National Archives of Australia シドニー分館に所蔵されている資料群。13社、3338箱が所蔵されており、そのうち、三菱商事関係は三菱商事メルボルン支店97箱、三菱商事(シドニー支店分) 112箱がある。

 

2012年9月

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