成果報告
2011年度
アフリカの食糧増産とアジアの稲作技術
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ガーナの事例
- 政策研究大学院大学教授
- 大塚 啓二郎
サハラ砂漠以南のアフリカ(SSA)では、急速な人口増加と未開の森林等の枯渇によって、農民一人当たりの耕地面積が減少しつつある。他方、土地あたりの食糧生産は停滞的で、その結果、国民一人当たりの食糧生産は減少傾向にあり、深刻な食糧不足が懸念される。それを回避するためには、熱帯アジアで実現したように、高収量品種の開発と普及、肥料の増投、適切な栽培技術の普及によって、土地あたりの生産性を向上させる必要がある。それを実現するためには、アジアの品種や技術が応用可能である水稲生産が最も有望であるということが明らかになってきた。しかも、水稲生産に適した未利用の湿地がSSAには広範に存在する。本研究の目的は、アジア的生産技術の普及の実態と制約条件を明らかにし、アフリカでの水稲生産の増大の戦略を探求することにある。
本研究では、ガーナ北部の農村での水稲生産の事例を実証研究した。ガーナでは、フランス政府が10年前から数多くの稲作農村で技術普及プロジェクトを実施しており、その効果を調べるために2009年に家計調査を実施した。技術の普及はプロジェクトが実施された農村に限定されていると予想されたが、実際にデータを収集して分析してみると、プロジェクト実施農村とそれ以外の農村での技術の普及率に大差はなく、技術普及の生産性への効果は限定的であるという理解困難な結果が得られた。そこで本研究では2011年8-9月に再調査を行い、2009年調査と同じ家計を訪れ、技術の採用時期、知識の入手経路、技術の理解度等について、詳細な情報を入手した。
技術導入に関する研究論文では、近代品種と化学肥料の使用のみに焦点があてられることが多いが、本研究ではそれに伴って使用される水資源管理の農業技術にも焦点を当てた。また、技術に関する情報を入手した経路にも着目し、技術に関する指導を直接受ける場合と、間接的に知る場合で効果に差が出るかも分析した。
データ分析の結果、近代品種と化学肥料が水資源管理の技術と共に用いられる際において、コメの生産性と利潤は増加する傾向にあり、統計的にも有意であることが示された。これは、アジアでの緑の革命と同じ現象である。SSAのように多くの農業が灌漑設備なしの天水栽培である場合、水資源管理技術の導入が近代品種の導入と同様に必要であることを示している。またアジアでの緑の革命と同じように、これらの新技術は比較的小規模な農家によって導入されていることも判明した。さらに興味深いのは、そのような技術移転が効果的なのは、近代品種や化学肥料の使用法について、農業普及員や農業支援プロジェクトによる専門家の指導があった場合のみだったことである。隣人がやっているのを見様見真似で導入できるような技術(畝づくり、水平化など)は直接指導がなくとも伝播しやすいが、近代品種などのように、導入時期や分量、方法などについてのある程度詳細な知識が必要な技術は、直接指導がその技術導入の効果を高めるということである。
本研究は、アジアの稲作技術がそのままSSAでも有効であることを示しており、その際の技術指導の在り方に関しても示唆している。同地域における食料不足問題を解決する緑の革命を実現するためには、さらなる技術支援プログラムの拡大が必要である。
2012年9月